蒐書録#005:千葉雅也『動きすぎてはいけない』ほか

外に出ると書店に寄る。

書店に寄ると本を買う。

書店に寄ったのに手ぶらで店を出る日は、よほどくたびれているということが自覚される。そんなふうに感じるようになって早幾歳。

目下プロ契約を結んで通っているゲーム会社モブキャストは東京都は六本木にある。

六本木の駅のそばには青山ブックセンターがあり、モブキャストに行く日はほぼ必ず立ち寄る。ということは、2015年からたぶん200回くらいは足を運んでいる勘定である。

同じ場所に200回ほど足を運ぶと、そうしようと思わなくても書店の棚の配置が記憶に入る。同店は少し前に棚の配置をがらりと変えたので、一時的に混乱したものの、以前の配置との関係さえつかめれば、ゼロから覚えるよりはやい。

そんなことを覚えてどうするのかと思うかもしれない。覚えても詮無いかもしれない。

ただ思うのは、古来記憶術で言われてきた場所とイメージを利用してものを覚えるというやり方は、それなりにリーズナブルであるということだ。同店にどれだけの本があるか分からないけれど、時間が許す限り隅々を見て歩くので、店内の棚を図示せよと言われたら、九割方は再現できると思う。

そして書店の棚とは、一種の知のマップである。

なんの話だっただろうか。

先日立ち寄った折りに以下の本を手にした。

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★千葉雅也『動きすぎてはいけない――ジル・ドゥルーズと生成変化の哲学』(河出文庫ち6-1、河出書房新社、2017)

2013年に河出書房新社から刊行された同書の文庫化。単行本でも読んだが、この機に再読してみたい。千葉さんは、今年刊行した『勉強の哲学』(文藝春秋)も含めて一冊ごとに新たな面を見せている。次の仕事も楽しみだ。

★ピエール・ビネトリュイ『重力波で見える宇宙のはじまり――「時空のゆがみ」から宇宙進化を探る』(安東正樹監訳、岡田好恵訳、講談社ブルーバックス2027、講談社、2017)

 Pierre Binétruy, À la poursuite des ondes gravitationnelles (Dunod Editeur, 2016)

 原題を直訳すれば『重力波の探究』。初版は2014年で、2016年に第2版。序文にも書かれているように、2016年2月に、重力波望遠鏡プロジェクトLIGOが重力波を検出したと発表している。その次第についても1章を割いて解説している。同書プロフィールによれば、著者ピネトリュイは2017年に逝去とのこと。

★中村雄祐『生きるための読み書き――発展途上国のリテラシー問題』(みすず書房、2009)

三中信宏さんの『思考の体系学』(春秋社)で引用されているのを見て気になっていたところ、青山ブックセンターの三中本がまとまった一角に並べられていた。同書に書かれている「生きるための読み書き」の検討は、発展途上国の問題として述べられているが、ほとんどそのまま現代の日本においても該当しそうな議論が多い。とりわけただ読み書きするだけでなく、その先にある「文書管理」まで視野に入れている点は、例えば各種企業でもおおいに参考になると思われる。思えば私たちは、学校で文書管理の手法というものをほとんど学ばないまま大人になっているのではないか。

★W. G. ゼーバルト『鄙の宿』(鈴木仁子訳、ゼーバルト・コレクション、白水社、2014)

 W. G. Sebald, Logis in einem Landhaus (1998)

ときどきゼーバルトを読みたくなる。というので先日もそんな気になって自分の書棚その他を探すも、かつて集め読んだゼーバルトがほとんど見つからない。品切れの巻も多いようである。ゼーバルト・コレクションは全7巻。

★ドン・S・レモンズ『物理2600年の歴史を変えた51のスケッチ』(倉田幸信訳、ダイヤモンド社、2017)

 Don S. Lemons, Drawing Physics: 2600 Years of Discovery from Thales to Higgs (2017)

 書店の洋書売り場に行くたび、ポピュラーサイエンスの棚で目に入って、そのつど読みたいなあ、読もうかなあ、でもあとでいいかなあ……などと迷っていたら翻訳が出た。科学史において図が果たした役割について考えてみたいと念じていたこともあって、うれしくありがたい訳業。解説は村山斉氏。著者と解説者のプロフィールはあって、訳者のプロフィールがないのがちょっと気になった。原題を直訳すれば『物理を描く――タレスからヒッグスまで2600年の発見』。