新しい金縛りは無限ループ

以前は、よく金縛りに遭っていた。

たいていは寝入りばなに体が動かなくなる感じが生じて、さりとてそのまま無視して眠りに落ちることもできず、なかなか困るのである。

ただ、何度も金縛りに遭ううちには、抜け方も工夫できるようになった。私の場合は、首のあたりにぐっと力を入れると、金縛りを脱することができる。ただし、一度では無理で、なかなか抜けない木の株を抜くときのように、何度か繰り返すうちにあるとき、ぱっと解放されるのだった。

随分昔のことになるけれど、なにかのイヴェントだったかの打上げの席に参加したら、生物学者の池田清彦さんがいらして、少しおしゃべりする機会があった。その際、金縛りが話題になって、抜け方があると話したら、池田さんが自分もそうだというので、たしか彼の場合はどちらかの足に力を入れるのだということだった、と記憶している。

もっとも、金縛りといっても、体が思うように動かない感じがするというだけで、体の上に得たいの知れないものが載っているとか、なにかが見えるといったことはない。

寝起きの時間が乱れていたり、そもそも睡眠時間が短かったりすると、金縛りになることが多かった気がしている。

この何年かは、憑き物が落ちたように金縛りに遭わなくなった。

ただし今度は、なんと呼んだらよいのか分からないけれど、次のような目に遭っている。

やはり睡眠に関わるのだが、寝ているときに、あたかも起きたかのように感じる。つい先日は、大学の研究室の椅子に座って仮眠をとっているときに生じた。

目が覚めて椅子から立ち上がる。

たしかに立ち上がったと思ったのに、気づいたらまた椅子で寝ている。

そしてまた目が覚めて椅子から立ち上がる。

しかし、すぐにまた椅子に座って寝ている状態になる。

何度か繰り返すうちに、これは夢だなと気づくものの、目が覚めて椅子から立ち上がる感覚があまりにも現実らしく感じられるので困ってしまう。

なにか手がかりが欲しいと思い、目が覚めて椅子から立ち上がる際、目の前の机にあるパソコンのキーボードに手を伸ばしてみる。一瞬、手のひらにキートップに触れたような感触があるものの、視野には手もキーボードも映っておらず、触感だけがある。そしてまた椅子に座って寝ている状態に戻る。

数えたわけではないけれど、かれこれ十何回かそうした状態をループしたと思う。

なにより困ったのは、金縛りにも似て、自分で自分の体を動かしている感じがしないところ。映像がループするように、椅子で眠る状態から目覚めて立ち上がるまでの動きを何度も繰り返すのに、その先に行けない。

セットしてあるアラームが鳴れば、この呪縛も解けるのではないかと期待したりもするものの、それでも体が動かなかったらどうなるだろう、という想像も湧いてくる。

結果的にはなにがきっかけか分からないまま、ループを抜けて本当に目が覚める。椅子にもたれた状態で、立ち上がったりはしていない。

これもおそらくは、睡眠時間が短い場合に起きるような気がしている。金縛りの別ヴァージョンだろうか。それともまた違う現象だろうか。