黒田龍之助氏のざっくばらんな文章のどこが魅力的なのかを考えてみたいのだが、そう思うばかりでなぜそう感じるのかよくわからない。よくわからないながら『はじめての言語学』(講談社現代新書1701、講談社、2004/01)を読んで思ったのは、対象との距離感の按配。「これが一番」という言い方ではなくて、「あれもあるし、これもある。両方あっていいじゃない」という姿勢。そう言っただけだと、「なんだ、なんでもありか」ということになるけれど、そうではなくて、「これはだめでしょう(間違っています)」という判断もしっかりしている。自分がわからないことはわからないという。すたすたと散歩するようなリズム。
他方で、津田一郎氏のどうにも読みづらい文章のどこがわかりづらいのかを考えてみたいのだが、これは比較的わかりやすい。わざわざ対話体(しかも筆者と思しき博士と二人のデーモン)を選んでいるから読みやすさに配慮しているのかと思えば、理系・文系ともに中途半端に予備知識を要求する書きぶりで、ディルタイ、ハイデガーの「解釈学」がわからない理系人にも、カオスの含蓄になじみのない文系人にも(ましてやどちらにもなじみのない人には)それだけでわかりづらい話になっていまる。ちょうど、専門分野を同じくする二人の研究者の内輪話を傍で聞いたらこんな感じだろうか。ちなみにこの本『ダイナミックな脳』(岩波書店)は、「双書科学/技術のゆくえ」の一冊で、同双書には「21世紀の自然科学リテラシーとは何か」というテーマがついている。