★知恵は野外で、街で叫んでいる。

ある貧しい無学者がローマの市場できわめて裕福な弁論家と出会った。無学者は弁論家に愛想よく微笑みながら、次のように話しかけた。


無学者 あなたのうぬぼれには驚きますよ。だって、あなたはたえまない読書と数知れない本を読むことでやつれるほどなのに、いまだに謙虚にならずいるのですから。こんなことになったのはきっと次のようなことからです。この世の知識というものは、あなたはその点で自分は他人よりも優れていると思っているのでしょうが、神のもとでは、いわば愚かさにすぎません。こんなわけだから傲慢になるのです。しかし、ほんとうの知識というものは人を謙虚にさせるものです。私はあなたがこの真の知識へと向かうことを願っていたのです。そこには喜びの宝庫があるのですから。

ニコラウス・クザーヌス「知恵に関する無学者の対話」(小山宙丸訳、『中世思想原典集成 第17巻 中世末期の神秘思想』、平凡社、1992/02、所収、amazon.co.jp