雑誌の特集



週刊読書人の今週号は、「年末回顧総特集」と題して各分野ごとの識者による2004年の収穫を報じている。各分野とは、哲学、政治学、経済学、社会学、日本文学、フランス文学、韓国文学、ロシア文学、英米文学、ドイツ文学、アフリカ文学、イタリア文学、ラテン・アメリカ文学、美術、音楽、演劇、写真、映画、科学技術、女性学、教育、マスコミ、日本古代史、日本中世史、日本近世史、日本近代以後、西洋史、東洋史、論潮、ノンフィクション、サブカルチャー、出版回顧、ミステリー、SF、時代小説、コミック、児童文学、詩、短歌、俳句の各分野。


各分野の担当執筆者に与えられた紙幅はけっして十分とはいえないものの、自分の粗雑なフィルターにはかからないあれこれの作品について、それぞれの道のプロが選書してくれるのはありがたい。人によっては、紙幅のほとんどを書名列挙に使っていたり、冊数は少ないものの評価する点をきちんと押さえていたり、時間がなかったのか結局なにを推しているのかわからないものがあったりとスタイルはさまざま。個人的には書名だけが大量に並んでいるよりは、冊数が少なくとも一言添えてあるほうがうれしい。ともあれ、同紙を読了するころには(当たり前のことながら)相当数の未読の良書があることがわかり、読書リスト(積読リスト)に数十冊が加えられることとなった。うぬー。


古本屋の軒先を眺めあるいて、ユリイカのバックナンバーをいくらか手にいれる。1990年代からは毎号テーマにかかわらず購読しているのだけれど、それ以前の号は所蔵を管理していないものだから、どれを手にして読んだのか判然としない。バックナンバーの整理をしなくては。


喫茶店にしけこんで、篠田一士が責任編集をしたユリイカの第6巻第5号、1974年5月臨時増刊号「総特集=現代世界文学入門」(青土社)をながめる。この号は、復刊してからの同誌六十数冊から篠田一士が選んだ文章を編んだ特集号で、欧米を中心とした作家論が並んでいる。


当時(1984年)「世界文学」という言葉は欧米文学をさしていたのだろうか。巻末につけられた「付録 現代世界文学年表」は、「英語圏」「ドイツ語圏」「フランス語圏」「ロシア語圏・ほか」「中国語圏・日本語圏・ほか」という分類で1820年から1970年までの文学作品が年表形式で列挙されている。前所有者が赤鉛筆で数作品にチェックをいれている(英語・ドイツ語・フランス語の作品に偏っているようだ)。再録された文章に目をとおしていると、ところどころページが真っ白になっている。当時の前衛的な気分の表現だろうか(違う)。この号はかならずこうなっているのかどうか、帰宅したら調べてみなければなるまい(読み始めて、すでにダブらせていることに気づいた私。『ユリイカ』の所蔵情況を、目次情報を作成がてら管理しようと心に決める)。


責任編集を担当した篠田一士の巻頭言リトルマガジンのために」にこんな一文がある。

創刊早々の半年ほどはともかく、「ユリイカ」が毎号のように特集を組み、その特集がヨーロッパ文学、芸術をテーマにしていることは、すでによく知られているところである。ベケットからベートーヴェンへ、ピカソからビートルズへ、あるいは、パウンドからバタイユへという工合に、現代芸術、とくに文学の領域において、われわれがどうしても無関心たりえない重要なフェノメノンがつぎつぎと取り上げられている。


これらは発生的には、すべてヨーロッパ、あるいはアメリカという風に、いわゆる外国種ではあるけれども、ひとたび「ユリイカ」の誌上において、特集という枠のなかに組みこまれるやいなや、どんな無表情な学術的論文も、あるいは、まったく義務的なサーヴィス心から書かれたとしか思えないような紹介文、さらに、その一篇を読むかぎりにおいては、無責任きわまる、途方もなく暴論と見える文章も、それぞれ、所を得、それなりの方向性を示しはじめ、われわれ、ひとりひとりの文学、あるいは、芸術の経験に批評の光りを投げかけてくれるのは、不思議といえば不思議な効験である。

篠田一士リトルマガジンのために」より)


これが特集のいいような悪いような点だ、と思う。いいというのは特集テーマのもとに、寄稿者たちそれぞれが対象ととりむすぶ関係の偏差を見てとれること。テーマにたいしておのおのが持ち寄った関心をぶつけることでどんな火花が飛び散るかをあれこれ見られること。悪いというのはほんとうに玉石混交で編集者がしっかりしていないと石だらけになってしまうこと。


近頃はあれこれの雑誌の特集を見ながら、もっと密度を高めてほしい、との(贅沢な?)感想を持つことが多い*1。月刊で無理にテーマを立てていくよりは、季刊程度のペースでじっくり濃密な誌面を構成したほうがよろしいのではないか(というかそのほうが読み手としてもありがたい)、と思うものも少なくない。


拙サイト(哲学の劇場 http://www.logico-philosophicus.net/)の改築計画を考えながら、ある対象を特集的に取り扱う理想的なやり方はどんなものだろうか、と愚考を重ねている。もちろんウェブサイトは書物・雑誌とは異なる形態なのだから、いっしょくたに考えることはできないけれど、参考にならないかと思ってあれこれの雑誌を眺めているところ。


⇒WEB週刊読書人
 http://www.dokushojin.co.jp/


関係ないけど、『カイエ』(冬樹社)の総目次は大久保さんの手になるものがWEB上にある。(http://www.asahi-net.or.jp/~di8y-ookb/cahier.htm

*1:最低限、特集の対象に触れたり考えたりするさいの案内地図になるような手堅い資料であってほしいし、できれば論考も特集テーマがはらんでいる可能性や問題点を目配せよくおさえてくれるような編成にしてほしい。などなど、作り手の都合をわきまえない勝手な要望ですけれど