ベルギー象徴派展」Bunkamura ザ・ミュージアム)



2005年4月15日から、Bunkamura ザ・ミュージアム(東京渋谷)にて、ベルギー象徴派展」がはじまった。


19世紀後半のフランスの文学界震源地をもつ象徴主義(symbolisme)の潮流に平行して美術の世界にも19世紀後半にイギリスのラファエル前派やフランスのギュスターヴ・モロー(Gustave Moreau, 1826-1896)らを嚆矢とする象徴主義的な作風があらわれた。


象徴主義では、現実の出来事や風景よりは神話、聖書、中世の伝説などを好んで題材にとりあげ、象徴(symbole)を介して、現実を写実主義自然主義的に描写することでは描き出せない観念・理念にかたちを与えることが目指されている。この潮流は、19世紀末から20世紀初頭のヨーロッパに広まった——と、いったんは教科書的に整理してよいだろうか。


フェリシアン・ロップス「娼婦政治家」(1878)
このたびの展覧会ベルギー象徴派展」は、19世紀の新興国ベルギーベルギーが独立したのは1830年)において(あるいは舞台をパリに移して)象徴主義的潮流の一翼を担った美術作家たちの作品を集めたものだ。フェリシアン・ロップス(Félicien Rops, 1833-1898)、フェルナン・クノップフ(Fernand Khnopff, 1858-1921)、ジャン・デルヴィル(Jean Delville, 1867-1953)をはじめ、20名の作家による作品が出品されている。


一口に「象徴主義」といっても、本展覧会を観てもわかるようにモチーフは多様でこれをなぜ「象徴主義」という名のもとに集めることができるのか、にわかにはわからないほどだ。また、シュールレアリスムや抽象芸術など、その後の美術史の流れを曲がりなりにも知っている現代人にとっては、象徴主義象徴主義たる所以が見えづらい憾みはある。とはいえ、そこは観客の側で補わねばならないところか。


この機会に象徴主義に関する文献にあたって美術における象徴主義象徴主義たるゆえんをつきつめてみたいと思う。


いずれにしても、ロップス、クノップフ、デルヴィルといった作家の作品をある程度まとめて観られるありがたい機会だった。ザ・ミュージアムでの会期は2005年6月12日まで。その後、尾道市立美術館鹿児島市立美術館、福井県立美術館、長崎県美術館を巡回する予定とのこと。


Bunkamura > ザ・ミュージアム
 http://www.bunkamura.co.jp/museum/index.html



最近の刊行物に関係する作品では、ロップスがバルベー・ドールヴィイ(Jules Barbey d'Aurevilly, 1808-1889)の小説悪魔のような女たち』中条省平訳、ちくま文庫、筑摩書房、2005/03[1874]、amazon.co.jp)のために制作したシリーズや、クノップフがスペンサーの『妖精の女王』をモチーフに描いた二幅などがある。


⇒作品メモランダム > 2005/014/18 > スペンサー『妖精の女王』
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20050418/p1