毎年五月になると、「哲学・思想図書総目録」や、「心理図書総目録」、あるいは、「社会図書総目録」といったカタログが書店に置かれる。「頒価300円」と印刷されているが、多くの場合は無料で配布している。
これは、人文図書目録刊行会なる団体によって発行される図書目録で、なにがどういう事情で編まれているのか、一読者にはよくわからないのだけれど、ともかく百数十社の版元の関連書目を3600冊(「哲学・思想図書総目録」の場合)、分類を施したうえで書名五十音順に掲載したものだ(発行元の所在地はどの目録もトーハンビル内となっている)。
それぞれの書目には、書誌のほか、短いコメントがついている。たとえば、「哲学一般」に分類されている『20世紀思想家事典』(誠信書房、2001/11、amazon.co.jp)なら、こんな具合。
20世紀思想家事典
E.デイヴィアイン他編 木田元他監修
激動の時代、20世紀に偉大な足跡を遺したあらゆ
る分野の〈思想家〉413名を網羅した人名大事典。
菊版 1692頁 税込33,600円
ISBN4-414-01101-9〔誠信書房〕
(ただし書影は印刷されていない)
また、全集や著作集、叢書などについては、各巻のタイトルが掲載されている。
ひょっとしたら「目録なんてインターネットでデータベースを引けばいいじゃないさ」と思う向きもあるかもしれないが、もちろんネットの書籍データベースとこうした図書目録とでは自ずと用途がちがっている。
ネットのデータベースは検索・抽出には至極便利だけれど、総覧性に欠けている。自分が知っている単語から情報を引き出すにはこれでよい。しかし、相互に関連しあっている作品にどのようなものがあるのか、ということになるとデータベースではおぼつかない。もちろん一定の手間をかけてデータを抽出・ソートすれば目的の情報を集められるが、それはすでに一種の目録を作る作業である。
目録の好さは、言ってみれば書店や図書館に足を運んで棚から棚へと見て歩くのと同じ好さである。そこには未知との遭遇がある。「おお、こんな本が出ていたのか」という発見は、経験的に実際の書棚の方が多いように思う。目下は関心の向いていない本も同時に視野にはいるからだ。
ただし、目録には書店とも違う好さがある。3600冊(種類)の哲学・思想書を蔵書している書店にお目にかかったことはない。しかし目録にはその3600冊が掲載されている。
これはどのような目録にも言えることに過ぎないけれど、たいへん便利なものだ。使い方はいろいろあると思われる。もちろんふつうにリファレンスブックとして書棚に置いてもよいし、私の場合、ときどきこの目録の一ページ目から最終頁まで目を通して、気になっていたのにまだ読んでいなかった本を思い出したり、刊行時に見落としていた書物を教えてもらう、という使い方もしている。
上では人文系の三冊についてのみ言及したけれど、ほかにも以下のような各種分野の目録がある。
■哲学・宗教関係
『心理図書総目録』人文図書目録刊行会
『哲学・思想図書総目録』人文図書目録刊行会
『仏教書総目録』仏教書総目録刊行会
『キリスト教書総目録』キリスト教書総目録刊行会
■歴史関係
『歴史図書総目録』歴史図書目録刊行会
■教育関係
『教育図書総目録』教育図書総目録刊行会
『障害児教育図書総目録』教育図書総目録刊行会
『幼児教育・保育図書総目録』教育図書総目録刊行会
■法律・経済関係
『法律図書総目録』法律書経済書経営書目録刊行会
『経済図書総目録』法律書経済書経営書目録刊行会
『経営図書総目録』法律書経済書経営書目録刊行会
■社会問題関係
『社会図書総目録』人文図書目録刊行会
『女性問題図書総目録』女性問題図書総目録刊行会
『部落解放・人権図書総目録』部落解放・人権図書総目録刊行会
■自然科学
『日本理学書総目録』日本理学書総目録刊行会
■工学関係
『情報・経営工学書目録』工学書目録刊行会
『電気・電子工学書目録』工学書目録刊行会
『機械・金属工学書目録』工学書目録刊行会
『建築図書目録』工学書目録刊行会
『環境・化学工学書目録』工学書目録刊行会
『土木工学書目録』工学書目録刊行会
『理工・技術系 資格試験図書目録』工学書目録刊行会
■農学関係
『日本農業書総目録』農業書協会
■保健・医学・スポーツ関係
『生活・家政学図書総目録』家政学図書目録刊行会
『医学書総目録』日本医書出版協会
『スポーツ・健康科学書総目録』スポーツ保健体育書目録刊行会
■芸術関係
『演劇・映画図書総目録』演劇図書総目録刊行会
『アート&デザイン・ブックカタログ』美術書出版会
■文学関係
『ヤングアダルト図書総目録』ヤングアダルト図書総目録刊行会
『国語・国文学図書総目録』国語・国文学図書総目録刊行会
(http://www-h.yamagata-u.ac.jp/~matumoto/manual/manual_PART2.htmより引用/ただし見出しに「■」を追記した)
不案内な分野について知りたいときにも、まずは刊行されている書物を一覧してみる、という風に使うこともできるので、とりあえず手元に置くと便利である。また、『演劇・映画図書総目録』のように、巻頭に評論家のコメントを掲載したり、巻末に「キネマ旬報ベスト・テン」からの抜粋を掲載するなどの工夫が施された目録もある。
あくまでも読者の立場から言うと、絶版・品切れの書目も掲載されているとなお便利なのだけれど、それこそないものねだりだろうか。
思えば、「哲学の劇場」というサイトでやってみたいことのひとつは、人文諸学についていつでも参照できる各分野の「必読書」を言語や入手可能か否かを問わず掲載した(つまりそのような書物が存在すること自体を表現した)ちょっと詳しい図書目録をこしらえることであった。目下の仕事をかたづけたら、いよいよ本格的に取り組もうと画策中。
⇒松本邦彦のウェブサイト > ウェブ版『検索マニュアル』第2部
http://www-h.yamagata-u.ac.jp/~matumoto/manual/manual_PART2.htm
上記、各種図書総目録の一覧は同サイトから引用させていただいた