★『暗黒街の弾痕』(74min, 1961)
去る2005年02月19日に亡くなった岡本喜八(おかもと・きはち, 1924-2005)監督、1961年の作品。
コマツモータースの新型高性能エンジンのテスト中、ドライヴァー草鹿一郎(三島耕)は、何者かの追跡をうけ、運転をあやまって峠から車ごと転落して死亡した。兄の死を知った弟・草鹿次郎(加山雄三)は、兄の親友でもあった技師・小松(中谷一郎)から産業スパイの暗躍を知らされる。次郎は大学時代の親友で破産寸前の零細週刊誌編集長/強迫まがいの仕事をこなすトップ屋・須藤健(佐藤允)の協力を得て事件の解明に乗り出そうとするが、直球勝負の次郎に対して、目先の利益でしか動かない須藤。コマツモータースの新型エンジン設計図を入手すべく画策する互栄経済研究所長・大鳥(河津清三郎)の周辺を洗ううちに暴力団能中組との関係が見えてくるのだが……。
エンジンの設計図をめぐる攻防を中心にした産業スパイもの。無駄のないスピーディな展開、伏線と回収の細やかな連鎖、アクションや構図を介した直感的なつなぎやカットバック、といった岡本作品の基本要素はもちろんのこと、ストーリーの展開でそれまで見えていた人間関係(首謀者は誰であるか、誰が敵/味方なのか)の配置をがらりと入れ替えてみせる手際は見事だ。ウラの事情を読めない直行的な次郎(加山雄三)と、ウラばかり見続ける須藤(佐藤允)が同じ出来事を目にしながら全く異なる反応を示してゆくコンビネーションも見所。
華麗なアクションも満載で逐一言及したいところだけれど、ここではひとつだけ紹介すると、次郎と能中組の志満明(中丸忠雄)がクラブで格闘する場面がある。志満の胸倉をつかんだ次郎が志満の頬に立て続けに拳をお見舞いする。このとき、殴られた志満は一発くらうたび、機敏なおきあがりこぼしよろしく正面に向き直る、そこへ次の一発がはいる。殴打⇒向き直り⇒殴打⇒向き直り⇒殴打……というアクションがすばやく繰り返される場面から生まれるリズムは、もはや様式的であり、舞踏のようでもある。
とぼけたキャラで愛嬌のあるミッキー・カーチス([加千須ブライアン]、1938- )、カットにするといくらも登場しないのに忘れ得ない顔を記憶に刻み込む天本英世(あまもと・ひでよ, 1926-2003)など、存在感あるキャラクターも見逃せない。とくに後者は、やる気があるのかないのかわからない尾行者(しかも弱い)の役で、ほとんど台詞もなく、殴られたり締め上げられて「ううう」と苦悶の表情(むしろ気持ちよさそうに見えるのは気のせいだろうか)を見せるだけなのだが、それが実に味わい深い。
加山雄三、中谷一郎、中丸忠雄、島崎雪子、ミッキー・カーチスなど、ひとつ前に観た作品と出演者がかぶっていることもあって、役者を通じて『顔役暁に死す』のキャラクターがこの作品に侵入してくること、若き加山雄三に長島一茂が、中丸忠雄にジョン・トラボルタが重なって見えるのがすこし困ったというのはもはや言いがかりに過ぎない。
余談になるが、フリッツ・ラングの『YOU ONLY LIVE ONCE』(1937)も同じ邦題を与えられている。
⇒日本映画データベース > 岡本喜八 > 『暗黒街の弾痕』
http://www.jmdb.ne.jp/1961/ck000020.htm
⇒日本映画データベース > 岡本喜八
http://www.jmdb.ne.jp/person/p0050510.htm
⇒日のあたらない日本映画 > 中丸忠雄全仕事
http://home.f05.itscom.net/kota2/index_maru.html