目下検討中の夏目漱石『文学論』では、「情緒」(感情、情動)が鍵を握っている。要するに、漱石先生は、文学作品を文学作品たらしめているのは「情緒」の要素であるという。


「文学作品は読者の情動へ訴えるものである」とは、従来から指摘されてきたことではあるものの、『文学論』ほど徹底的にこの観点から小説や詩や戯曲の具体例を分析してみせた文学論も珍しい。同書では、作家の情緒、作中に表現された情緒、読者の情緒と区別をした上で、作品に表現された情緒が読者の情緒にいかなる効果をもたらすかということをつぶさに検討している。


今回、上記の「情動伝染」実験のニュースに触れて、「そうか、漱石先生の『文学論』の議論も、いってみれば情動が伝染するという話をしているのだ」と思い至った次第。『文学論』を読み解くためにも、現在行われている情動伝染に関する研究動向に注目してみたい。


この話は、古くから哲学(かつては現在でいう自然科学をも含む総合学術だった)において論じられてきた「共感」の問題や、昨今の神経科学で発見・研究されてきた「ミラーニューロン」の議論などとも関わってくるはず。大きな見取り図を描いてみよう。


というわけで、ネット上で入手できる論文を探し読んでいるのだが、ついでにここにもメモをつけておく。ネットを使った調べ物のコツは、ある検索をかけた時、自分がどんな関心や疑問を懐いていたか、どんな文献に遭遇して読んだかという調査・検索の「文脈」を記録しておくことだと思うのである。


★佐々木美加「感情の対人的影響に関する実験研究のレビュー」(『明治大学教養論集』第482巻、33-56、2012/03)
 https://m-repo.lib.meiji.ac.jp/dspace/bitstream/10291/14872/1/kyouyoronshu_482_33.pdf


★木村昌紀+余語真夫+大坊郁夫「日本語版情動伝染尺度(the Emotional Contagion Scale)の作成」(『対人社会心理学研究』(7), 31-39, 2007-03)
 http://ir.library.osaka-u.ac.jp/dspace/bitstream/11094/6043/1/jjisp07_031.pdf
 CiNiiを「情動伝染」という語で検索してヒットする唯一の論文(2014.06.29現在)。


★川脇慎也「ヒュームの「共感」について:先行研究に学んで」(『経済論究』(141)、1-18、2011/11)
 http://catalog.lib.kyushu-u.ac.jp/handle/2324/20343/p001.pdf


★島内明文「ヒュームとスミスの共感論」(『実践哲学研究』(25)、1-26、2002)
 http://www.ethics.bun.kyoto-u.ac.jp/jk/jk25/jk-25shimanouchi.pdf


★仲島陽一「ヒュームとスミスにおける〈共感〉の問題」(『国際地域学研究』第4号、151-160、2001/03)
 http://rdarc.rds.toyo.ac.jp/webdav/frds/public/kiyou/rdvol4/rd-v4-151.pdf


CiNii > "emotional contagion"の検索結果
 http://ci.nii.ac.jp/search?q=emotional+contagion&range=0&count=200&sortorder=2&type=0
 上記「日本語版情動伝染尺度の作成」を含む13本の論文がヒットする。後で順次読んでいこう。


⇒作品メモランダム > 2014/06/15 文学における認知・感情
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20140615
 感情の観点からなされた文学研究について。