書評:ジョシュア・ウルフ・シェンク『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』

「日本経済新聞」2017年06月17日(土)版に、ジョシュア・ウルフ・シェンク『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』(矢羽野薫訳、英治出版、2017/04)の書評を寄稿しました。

以下余談です。

私は、最初に書いた『心脳問題――「脳の世紀」を生き抜く』(朝日出版社、2004)以来、しばしば吉川浩満くん(id:clnmn)と一緒に本や原稿を書いています。

最近「ゲンロンβ」や「webちくま」に連載している文章のように、対談の形をしている場合は、「ああ、二人で話しているんだな」と分かりやすいのですが、それ以外の場合、あたかも一人の著者が書いたように見えるので、いったいどうやって二人でこれを書いているのかと、時折お尋ねいただきます。

およそ以下のようなプロセスでやっています。

1) テーマについて話しあう。

2) 全体を適当に分けて、話しあったことに基づいて書く。

3) お互いが書いたものを交換して書き換える。

4) 必要に応じてさらに話し合い、検討する。

5) 完成に至るまで3に戻る。

 という具合です。

要するに、何をどう書くかをはじめに話しあって、出発点では誰かが書く必要があるので分担して書くものの、それを交換して遠慮会釈なく上書きしあうということを繰り返すわけです。これを私たちは「レノン&マッカートニー式」とか「ドゥルーズ&ガタリ式」などと呼んでいます(不遜にも程がありますが!)。

吉川くんとは、1990年代初めに大学で知り合い、いまに至るつきあいです。1997年に「哲学の劇場」というウェブサイトを二人でつくり始めたりもしました。かれこれ二十数年、共同作業を続けている勘定です。

今回、『二人で一人の天才』(原題を直訳すれば『二人の力――創造的ペアによるイノベーションの核心の発見』)を書評するために読みながら、「ああ、そういうことだったのか」と、何度も膝を叩きました。

――ということを、当初、書評にも書こうと考えたのでしたが、限られた紙幅を(読者の大半にとってどうでもよろしい)自分の話に費やすのもなんだね、と思ってご覧のようになりました。

よくもまあ、そんなに調べましたね、という豊富な例を使って、創造的活動におけるペア(二人組)の力を浮き上がらせる類を見ない試みです。

日経新聞書評欄、今回で5度目の登場となりました。

・スティーヴン・ワインバーグ『科学の発見』(文藝春秋)

・ロジャー・クラーク『幽霊とは何か』(国書刊行会)

・エイミー・E・ハーマン『観察力を磨く 名画読解』(早川書房)

・國分功一郎『中動態の世界』(医学書院)

・ジョシュア・ウルフ・シェンク『POWERS OF TWO 二人で一人の天才』(英治出版)