★中地義和ランボー 自画像の詩学(岩波セミナーブックスS5、岩波書店、2005/02、amazon.co.jp)#0258


2000年に行われた岩波市民セミナー「ランボーの詩を読む」に基づいた書物。しばしば、自己を他のもの(たとえば船)に見立てて詩作するランボーの作品を、「架空の自画像を描く運動として」読解する。「〔ランボーの詩を〕日本語で読む」という岩波セミナーの制約下で行われたというこの講義を読むにあたっては、フランス語の原文を脇に置いて対比しつつ読むことが著者の意向にもかなった読み方だと思う(たんに原文を見るだけなら、ペンギンブックスから仏英対訳の手軽に入手できるペーパーバックスが出ている)。


冒頭に置かれた「翻訳で読むランボー」というくだりは、日本語以外の言葉で書かれた詩を翻訳で読もうと思う読者に何度でも注意されてしかるべき基本的な事柄が丁寧に確認されているので、これからそうした詩を読んでみようと思っている読者はぜひ参照されたい。


詩を読むという、ある意味とても難しいことを、異国語で発想され書かれたというさらに困難な条件のもとで、しかしながら誠実かつ丁寧に実践する現場に立ち会える贅沢な一冊。文学部の教室ではこんな贅沢があちこちで行われているのだろうか? だとしたらうらやましい限りだ。


詳しい内容については後ほど。

はじめに
第一章 言葉の発見
第二章 未知への意志——船という自画像
第三章 科学と学問
第四章 内省を媒介する形象
第五章 火を盗む者の変容——『イリュミナシオン』の自画像
結びに代えて——交易商人の自画像
あとがき