『めし』(1951)


林芙美子(はやし・ふみこ[林フミコ]、1903-1951)が晩年に「朝日新聞」で連載していた小説『めし』(絶筆)を原作とする映画。大阪天神の森に住む或る夫婦のかわりゆく関係を描く。


狭い炊事場で朝食を用意する三千代原節子)をよそに煙草をふかしながら新聞を読みふける初之輔上原謙)。語りかける三千代に初之輔はぼんやりと応答するばかり。会社勤めの初之輔といわゆる専業主婦におさまる三千代の生活は、周囲から見れば幸せな家庭そのもの。けれども、三千代は自分の顔をみれば「腹が減った。めし」と言うばかりの初之輔との間柄に違和感を深めてゆく。



そこにあらわれたのが、初之輔の姪・里子島崎雪子)。東京の家を出てきたという里子は、初之輔と三千代の家にころがりこんで、「家庭の事情」を知らぬまま遊民として気ままにふるまう。一見したところまだ苦労を知らず種々の社会的コードにしばられていない里子の存在は、初之輔と三千代の気詰まりでさまざまなものに縛られたありようを照らし出す。里子にばかり優しい初之輔に苛立ちを隠せない三千代は、ついに家を出ることを思い立ち、東京の実家へ帰る。


実家には母と妹夫婦がいて、今度は自分が食客となる三千代。独り身になって身の回りが片付かない初之輔。


ここには書かないけれど、結末を観ると、その凡庸な幕切れに一旦はあっけにとられるかもしれない。けれども思えば、作品ははじめからなにも特別なところのない夫婦の姿を描いていたのだった。なにかが起こるかもしれないと期待してしまうのは、原節子上原謙という役者の端正なたたずまいに拠るのではないか、と身も蓋もない感慨をもつ。


⇒日本映画データベース > 『めし』
 http://www.jmdb.ne.jp/1951/ca001950.htm


青空文庫 > 林芙美子
 http://www.aozora.gr.jp/index_pages/person291.html