書評はこんなふうに

400ページほどある内容の詰まった本を、わずか1000文字で紹介する。

これはある種スポーツのようであるというか、腕力を問われることなのであります。なにをどう考えたって、本の内容を圧縮・取捨選択せざるを得ません。

短くまとめられるんなら、作家だって最初っから短く書くよねと述べたのは、太宰治だったでしょうか。書き手が必要と考えて書いた文を要約してしまうのですから、えらいことであります。

ではどこを捨ててどこを採ればよいか。その選択には、書評する者の着眼やものを見る目が隠れもなくあらわれてしまいます。そう、書評とは、対象である本を評するようでありながら、その実評する者こそが問われる、考えようによっては大変な作業であります。などと申せば、「なにをそんなオオゲサな」とお思いになるかもしれませんが、これホント。

評価者がなにを気にしているかこそがあらわになるもの、と言ってもよいでしょう。だから本当は、批評や評価をするのはおっかないことではなかろうかと、以前『文体の科学』という本に書いてみましたが、いまでもそう思っています。

 

さて、この作業をできるだけ実りのあるものにするため、また、できれば書評を読む人にとって意味あるものにしようと念じて、書評を書くとき、おおむね次のようにしています。

 

01. 書評する本を読む。(いろいろな場所で読んだりもする)

02. 読みながら余白にあれこれ思うことを書き込む。

03. 類書、原書(翻訳書の場合)を集め読む。(ただしこれは締め切りまでの時間次第)

04. 書評する本をもう一度読む。(時間の許す限り復読)

05. 余白への書き込みをメモに書き出す。

06. このメモを並べ替え、追記しながら構成を考える。

07. 構成を箇条書きにする。

08. この箇条書きにそって書評原稿を書く。(まずは文字数を気にせず)

09. 書き終えた原稿をプリントアウトして赤ペンを片手に読む。(時間の許す限り何度でも)

10. 規定文字数を超過している場合、全体を繰り返し読みつつ少しずつ文字を削り、表現を改める。

11. 1行の文字数が分かっている場合、そのレイアウトでさらに調整。

12. 時間の許す限り読み直す。

13. 完成(というより締め切りによってやむを得ず手を止める)

 

この過程は、ジャムを煮詰めるのと似ているようにも思います。つまり、書評する本(果物)に含まれる水分を飛ばしながら、そのエッセンス(果肉)を凝縮させるという感じです。

一番時間がかかるのは、推敲の段階です。一度書いた文章は、愛着がわいたりもするのですが、文章全体のなかで意味をもっていなければ、それこそ意味がありませぬ。そこで、時には「えい!」と、大胆に削る必要もでてきます。

特に難しいのは冒頭と結末です。私の場合、結末のほうがいっそう難しく感じます。展開してきた議論をどんなふうに終えるか。落語でいえばオチのつくところ。書評の場合、できたら読者自身がその本を読んでみようと思ってもらえるといいナというつもりで書いていることもあって、ことさら苦心します。

てな感じで書いております。

え? そのわりにたいしたことないなですって? ぎゃふん。

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