このところ、「公開加圧」を試している。
「公開加圧」とは、三中信宏さんの『読む・打つ・書く』(東京大学出版会)で教えられた、ものを書き進めるための方法のこと。
以前から三中さんがTwitterで実践しておられるのを目にしてはいたのだけれど、同書でその考え方や具体的な例を読んで、自分でも試してみようと思い立ったのだった。『読む・打つ・書く』は、読む人を「焚きつける」本で、私もすっかりその気になったというわけである。
詳しくは同書に譲るが、「公開加圧」とは、書き物などの仕事について進捗を公開することで、自分に圧をかけるという発想。
例えば、つい最近私がTwitterに投稿したのはこんな具合。
[書き物] 連載B-1:3100(計4413字)完成
— 山本貴光 (@yakumoizuru) 2021年9月9日
原稿のために全文を読みたい記事がありLe Monde電子版の購読を始めてしもうた。文章を書くために資料を買っていると、原稿料の前借りをしているような気分になってくる。たぶん130年分くらい前借りしている。
「公開加圧」としては、1行目の「[書き物] 連載B-1:3100(計4413字)完成」に意味がある。残りは、なんとなくそのつどおまけのように書いている雑談で、こちらはあまり意味がない。
私は1日の終わりに、その日書いた字数を原稿ごとにカウントしてまとめてツイートしている。三中さんのように書いたその場でツイートというやり方もある。
このツイートは、当人にしか意味がない。
上記のようなツイートを目にしても、他の人にとってはよく分からないだろうし、「ふーん」てなものである。そしてそれで構わない。
他の誰もそのツイートを見ていないとしても、ツイートする側としては、Twitterという第三者の目がある場所に自分の進捗を投稿することで、「人目にさらしている」という意識が生じる。この意識を生じさせるための「公開加圧」なんである。
先に触れた三中さんの本で、その効能が説かれていて、「現にほら、この本もこうして書かれたわけですよ」という意味の具体例も提示されている。それで、自分でもものは試しとやってみた。
最初はそうはいっても、実際にどんな効果があるのか、まだ分かっていなかった。
だが、1週間、2週間と続けるうちに、ものを書くことについての意識がかなり変わった。何が変わったと感じているかを、少し書いてみたい。
1) 字数を意識するようになった
それまでは、依頼を受けた原稿で文字数を指定されている場合などに、その上限字数を気にすることはあっても、自分が今日何文字書いたかを考えることはなかった。目標字数に近いかどうかだけ意識していた。
「公開加圧」を始めてから、日々自分が書いた文字数を意識する習慣ができた。というのは「公開加圧」のツイートに書くために、原稿ごとの字数を確認するからだ。
字数を意識すると、たとえそれが小さな数字であっても、着実に前進しているという感覚が生じる。仮にあとで書いたものを捨てることがあるにしても、進んでいるという感覚は結構大事だと思う。
2)日々の時間の使い方が変わった
それまでは、締切が近いものがあると、わーっと集中して書いて、終わるとぼけーっとする。ということを繰り返していた。つまり、夏休みの宿題を最終日にやる子供のような仕事ぶり。
「公開加圧」を始めてから、日々の限られた時間を見つけて、少しずつでも書く習慣がついた。目下は大学に所属しており、そちらが主な仕事ということもあって、物書きや翻訳は、主業務のあいまのスキマ時間に行っている。
以前なら、「締切前になんとかまとまった時間をつくって一気に片付ける」という短期決戦型の発想をしていたところ、「次の会議まで30分。ちょっとあれを書き進めておこう」てなもので、数百文字でもできるときに進めるという意識になっている。結果的に仕事の時間にメリハリがついたりもする。
3)執筆以外の意識も変わった
なんだか冗談みたいだが、「公開加圧」で物書きの進捗を意識するようになってから、ものを読むことについても同様に考えるようになってきた。これについては、また別途書いてみることにしよう。
というわけで、「公開加圧」の効能についていくらか書いてみた。
詳しくは、三中信宏『読む・打つ・書く』(東京大学出版会)でどうぞ。