Googleで、医療や健康にかんする検索結果の質を向上するアップデートがなされたとのこと。歓迎したいニュースです。
ただし、利用者が検索結果の真偽や信頼性について自分でも検討・判断する必要があるという点にかわりのないことには引き続き注意が必要であります。
それとはまた別に、Googleによる説明文に含まれる次のくだりも重要です。
現在、毎日数百万件以上の医療や健康に関する日本語のクエリが Google で検索されています。これを分析してみると、医療の専門用語よりも、一般人が日常会話で使うような平易な言葉で情報を探している場合が大半です。日本のウェブには信頼できる医療・健康に関するコンテンツが多数存在していますが、一般ユーザー向けの情報は比較的限られています。
もし、あなたが医療関係者で、一般のユーザーに向けたウェブでの情報発信に携わる機会がありましたら、コンテンツを作る際に、ぜひ、このような一般ユーザーの検索クエリや訪問も考慮に入れてください。ページ内に専門用語が多用されていたら、一般ユーザーが検索でページを見つけることは難しくなるでしょう。内容も分かりづらいかもしれません。
(「医療や健康に関連する検索結果の改善について」(Googleウェブマスター向け公式ブログ、2017年12月06日の記事)から)
この点について、以前、日本保健物理学会「暮らしの放射線Q&A活動委員会」編『専門家が答える 暮らしの放射線Q&A』(朝日出版社、2013)という本の編集をお手伝いした際、痛感したことがあったのを思い出しました。
同書は、2011年3月11日の震災と原子力発電所の事故のあとで、放射線の健康への影響に疑問をもつ人びとから、広く質問を受けつけて答えるという切実な仕事にとりくんだ同名ウェブサイトをもとに編まれたものです。
そのサイトでは、放射線について必ずしも正確な知識をもたない人びとからの質問を受けて、専門家たちが現時点で科学的に判明している知見にもとづいて回答を書き、公開し続けました。関係者のみなさんの熱意と使命感なくしてはなしえなかった大変な仕事です。
先に述べた本では、それらのQ&Aから精選したものにリライトを施しています。私は同書を企画・編集した赤井茂樹さんを手伝ってそのリライト作業に参加しました。
その際に遭遇した課題は次の2点に要約できます。
1) 放射線の影響に不安と疑問を感じている人が読んで、できればその不安と疑問を解消・緩和できること。
2) 科学の知見の正確さを損ねずに伝えること。
これはもとのウェブサイトでも目指されていたことだと思います。
ただし、この二つの要件を同時に満たすことは簡単ではありません。
2の科学的な知見の正確さを確保しようとすればするほど記述は細かくなり、予備知識・予備理解なくしては読みがたいものになります。
さりとて1を満たすことを優先して適当なことを述べるのでは意味がありません。
言い換えると、落ち着いて探究心を持って読む、といった読み方ではなく、不安で心配なので本当のところはどうなのかを知りたいという読み方をする読者が読める形で科学の知見を提供する必要があるわけです。
そして、多くの場合、おそらくは「こうです」と白黒がはっきりした回答が期待されるかもしれないところ、実際にはそう割り切れるものではないという話をしなければならないという難しさもあります。
同書では最終的にどのような文章になったかはご覧いただいてご判断いただくよりありませんが、私自身はこのプロジェクトに関わって以降、この課題について考えさせられ続けています。
専門用語とは、たとえるなら複雑な仕組みや概念をぎゅっと圧縮して簡素に省略した表現です。「放射性同位体」や「自然放射」などがその例。
背景も含めた知識をもつ当該領域の専門家にとっては互いのやりとりにも便利な用語です。他方でこれを非専門家に提示する際にはどうしたらよいか。ここにはまだまだ多くの課題や工夫できることがあるように思います。
ひょっとしたら、生活にかかわるさまざまな専門知識について、必要なときに理解を助けてくれるような事典があるとよいのかもしれない、などと想像したりもしています。
あるいは、一つの概念なり用語について、読者の理解の程度に応じて提示される説明文の量と内容が変化するような事典があってもよいでしょう。
てなことを、Googleの発表を読んで考えたのでした。