『蘭学の時代』(中公新書、1980/12)、『インターネット社会論』(岩波書店、1996/02)などで知られる赤木昭夫氏の新著、
★赤木昭夫『自壊するアメリカ』(ちくま新書326、筑摩書房、2001/10、amazon.co.jp)
は、2001/09/11の同時多発テロ事件を契機にはじまったアメリカの軍事行動とそれに応じる諸国の動向を、国際政治・経済の力学から読み解こうとする一書。
・なぜWTCビルがねらわれたか」
・そのとき大統領は何をしたか
・世界恐慌は避けられるか
・なぜ首脳はワシントンへ詣でたか
・なぜロシアはアメリカにすりよるか
・『日の丸を示せ』と誰が言ったか
・アフガニスタンはどうなるか
・アメリカはどの道を選ぶか
という構成。本書の全体を貫く「自戒しなければ自壊するアメリカ」という観点から、アメリカのアドホックな自国利益優先の政治手法を分析しつつ批判している。この辺のことについて頭を整理してみたい読者にはうってつけだ。
その赤木昭夫氏が2001年09月に上梓した翻訳書、
★ルイジ・ルカ・キャヴァリ=スフォルツア『文化インフォマティックス 遺伝子・人種・言語』(赤木昭夫訳、産業図書、2001/09、amazon.co.jp)
Luigi Luca Cavalli-Sforza, Genes, Peoples, and Languages(North Point Press, 2000)
も興味深い一冊。人類の集団がどのように諸大陸へひろがっていったか。キャヴァリ=スフォルツアはこのことを遺伝子の人口動態とでもいうべき統計的分析手法によって推定する。本書の重要な帰結のひとつは、いわゆる人種偏見の不当性を遺伝子の見地から確認する点である。また考察は人口の動態にとどまらず、農耕技術の伝播、言語の分化の過程などを辿り、人類の文化にまで及ぶ。遺伝人類学、文化人類学、考古学、言語学、技術史など既存の学問分野を広く横断するその手つきは実に刺激的だ。
訳者によれば本書は、1000頁を越える大著、
★L.Luca Cavalli-Sforza + Paolo Menozzi + Alberto Piazza, The History and Geography of Human Genes(Princeton University Press, 1994)
を一般読者向けにつくりなおした書物とのこと。
赤木昭夫氏は『文化インフォマティックス』のほかにも産業図書から
★スティルマン・ドレイク『ガリレオの思考をたどる』(1993/03)
Stillman Drake, Galileo: Pioneer sciientist(University of Toronto Press, 1990)
★ウィリアム・H.デイヴィス『パースの認識論』(1990/11)
William Hatcher Davis, Peirce's epistemology(Martinus Nijhoff, 1972)
といった翻訳書も刊行している。
氏の『蘭学の時代』はとてもいい本なんですが、なぜか復刊のきざしがないのですよね。
【追記】2002年06月30日(日):
その後の赤木昭夫氏の仕事をフォロウしておこう。
★赤木昭夫+槌屋治紀『技術の分析と創造』(放送大学教育振興会、2002/03)
★フィリップ・ボール『生命を見る 分子と生命の化学』(赤木昭夫訳、産業図書、2002/04)
【追記】2005年06月02日(木):
以下のエントリに、赤木氏の新著『説得力』についてのメモランダムを作成した。
⇒作品メモランダム > 2005/03/23 > 赤木昭夫『説得力』
http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20050323/p3
⇒哲学の劇場 > 資料 > ちくま新書
http://www.logico-philosophicus.net/resource/chikumashinsho/index.htm
⇒筑摩書房
http://www.chikumashobo.co.jp/top.html
⇒産業図書
http://www.san-to.co.jp/