戸田ツトム『D-ZONE——エディトリアル・デザイン 1975-1999』青土社、1999/06、amazon.co.jp


戸田ツトム(とだ・つとむ, 1951- )氏のデザインワークを集成した書物。


人文書を読む人なら、戸田ツトムという名前を聞いてすぐに何冊かの書物が思い出されるかもしれない。書物というよりは、ざらついた石かなにかの塊のようなドゥルーズ『差異と反復』河出書房新社)や千のプラトー河出書房新社)あるいはマルウ・ブルデル『エリック・サティ』(リブロポート)、幾何学模様を大胆かつシンプルにあしらった『GS たのしい知識』(冬樹社/UPU)やある時期の『文藝』河出書房新社)、白地にCGで描かれた立体や図像がばらまかれたように配置されたミンスキー『心の社会』(産業図書)、ヴィリリオ『速度と政治』平凡社)、水墨画にも通じるタッチの風景を配したドゥルーズスピノザ平凡社)、松岡正剛『ルナティックス』作品社)、テキストと線だけで構成されたフッサール現象学の理念』作品社)などなど、いくらでも思いつく。


それもそのはずで、本書に収録されたデザインはいったい全部でいくつあるのかもわからないほど多数に及んでいる。なかにはビジネス書やマンガ、週刊雑誌など、戸田氏の仕事とは気づかず手にしていたものも相当数あった。読むための文字、というよりはデータを列挙した、という風情の書体選定とエディトリアル・デザインが本書にも活かされており、戸田氏のさまざまな文章が再録・引用されている。


彼の仕事のなかでもとりわけCGによる風景は、ゲーム屋という自分の職業柄もあって強く印象に残っている。というのも、いまでこそそういうグラフィックがつくられるようになってきたけれど、現実世界にあるはずの空気による光の散乱やさまざまな物質の表面にあるはずの不規則でノイジーな質感というものをある時期までのCGはほとんど無視していたのだった(ハードの性能上無理もなかったのだが)。戸田氏が書物の表面に現出させる風景は、ゲームのCGにないそうした要素が多分に含まれていた。ないものねだりとわかりつつ、戸田氏が装幀した書物(物塊めいたテクスチャーのものと風景をあしらったもの)を持ち歩き、こういうテクスチャーやこういう風景がほしい、とグラフィッカーにかけあったのも今は昔。もちろん、静止画であのような風景やテクスチャーを描き出すのと、画面中でリアルタイムに計算しながら描出しなければならないゲームとでは比べられないのだけれど、世の中にここまでやっているCG表現があると知っていてそれを無視することはできない。単にハードの性能が向上してグラフィック表現が緻密になるのがゲームのためによいとは思わないけれど、戸田ツトムが描き出すような風景の中を歩き回れるならハードの進化も悪くない、などと思ったり(データを作らされる身になれば気軽に言えることではないけれど!)。思わず話しがCGの方にそれた。


戸田氏は、『MEDIA INFORMATION』(1980?-1986)、『SPHYNX 視線の科学・デザインの科学』(麻布書館、1984-1986?)、『TwiLight Review』太田出版、1990-1993)といった雑誌を自ら編集しており、目下は鈴木一誌氏、入澤美時氏とはじめた季刊グラフィックデザイン批評誌『d/SIGN』(筑波出版会、2001-2002; 太田出版、2003- )を共同編集している。


青土社
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