杉浦康平『疾風迅雷——杉浦康平雑誌デザインの半世紀』DNPグラフィックデザイン・アーカイブ、2004/10、amazon.co.jp


世間には「本は中味が読めればそれでいいのだ!」という装幀に顧慮しない書物と、「一冊の書物にここまでするのか」という書物とがある。


顧慮しない書物の典型は、たとえばコンピュータ関連書で、まことに不遜ながらドシロウトの自分がデザインしてももうちょっとなんとかなるんじゃないかと思えるようなものが少なくない。もちろん、中味がしっかりしていれば文句はないのだが、ブックデザインへの配慮が欠けているのを見ると、思わず書物そのものをつくる姿勢を疑いそうになる。逆に優れたデザイン(あるいは手のかかったデザイン)の書物には、その内容を読み考えるという目的を超えたところでモノとして惚れ惚れするというそれはそれで倒錯気味な事態をひきおこすところもある。


以下で触れる二冊の書物の著者は、いずれも後者に属するグラフィック・デザイナー。


『疾風迅雷』は、装幀とエディトリアル・デザインの最前衛を走りつづけてきたデザイナーの一人、杉浦康平(すぎうら・こうへい, 1932- )氏の雑誌デザインを集めた作品集。2004年10月5日から10月30日にかけて、ggg(ギンザ・グラフィック・ギャラリー)で開催された「疾風迅雷——杉浦康平雑誌デザインの半世紀」展のカタログでもある。杉浦氏の半世紀にわたる雑誌デザインから代表作を総覧する一冊。以下、再録されている誌名を簡易書誌とともに列挙してみよう。


「音楽芸術」(音楽之友社、1960-63)、「広告」(博報堂、1960)、「工芸ニュース」(産業工芸指導所)、「数学セミナー 第I期」(日本評論社、1962-70)、「デザイン」(美術出版社、1964)、「新日本文学」(新日本文学会、1964-66)などのずれながら反復増殖する幾何学模様を中心としたデザインから、雑誌の内容が表紙に流れ出始める「SD」(鹿島出版会、1966-68)、「都市住宅」(鹿島出版会、1968-70)、「a+u」(エーアンドユー、1971)を経て、「パイデイア」(竹内書房、1969-72)、「遊」(工作舎、1971-79)、「エピステーメー 第I期」(朝日出版社、1975-79)、「エピステーメー 第II期」(朝日出版社、1984-86)、「リブラリア」(インターシフト、1988)の思考とせめぎあう実験度の高いデザインへ到達し、同時に「季刊銀花」(文化出版局、1970- )や「噂の真相」(噂の真相社、1980-2004)では漢字やイラストを大きくフィーチャー、「日本の美学」(ぺりかん社、1990-96)、「DOLEMEN」(ヴィジュアル・フォークロア、1989-91)、「自然と文化」(日本ナショナルトラスト、1983-2005)、「墨スペシャル」(芸術新聞社、1989)、「日本語」(公文教育研究会、1989-90)、「文」(1985- )では、近年の一連の仕事を印象づけるアジアの文様が導入されている。


本書に収録された雑誌デザインには、それぞれ杉浦氏による解説も付されている。また、臼田捷治、羽原粛郎、植田実の各氏によるエッセイ、『遊』でタッグを組んだ松岡正剛氏との対談も併録。


DNP > 「疾風迅雷——杉浦康平雑誌デザインの半世紀」展
 http://www.dnp.co.jp/gallery/ggg/gki/g221/g221ki.html


⇒idcn > 「疾風迅雷——杉浦康平雑誌デザインの半世紀」展
 http://www.idcn.jp/ds/sugiura/index.htm


DNP
 http://www.dnp.co.jp/