古典ギリシアの諸作品を読んでいると、こんなに面白いものがあるならしばらく他の本は要らないや、という気分になることがある。叙事詩、抒情詩、悲劇、喜劇、物語、弁論、歴史、地理、哲学、医学、天文学、博物誌、戦記、綺譚、書簡、恋愛論、数学、農業、釣魚、伝記……。先般までこの豊かな作品群に対して、わたしたちはさほど多くの翻訳を持っていなかった。それで入手できる邦訳書をあらかた読んでしまった後は、仕方なく(?)LOEB CLASSICAL LIBRARY などの対訳書にあたり、さらにはたどたどしく原典をひもとくことになるわけだが、研究者でもない好事家にとって単に享楽のための読書の代価としては甚だ荷の重いことではあった。
1997年06月に福音は訪れた。京都大学学術出版会から『西洋古典叢書』の刊行が開始されたのだ。これはギリシア、ローマの古典諸作品を原典からの完訳で提供しようという叢書で、第I期15冊の配本終了後に配布された小冊子『西洋古典叢書がわかる』(京都大学学術出版会、1999)によれば、とりあえずは300冊に及ぼうかという作品の翻訳刊行が予定されており、さらにそこに掲げられている書目に尽きるものではない、とも言われている。快挙というべき事業である。
はじめに予定された第I期の15冊は順調に、ほぼ月刊のペースで刊行された。書目はつぎのとおり。
★プルタルコス『モラリア14』
★セネカ『悲劇集1』
★アテナイオス『食卓の賢人たち1』
★セネカ『悲劇集2』
★アリストテレス『天について』
★プルタルコス『モラリア13』
★トログス『地中海世界史』
★セクストス・エンペイリコス『ピュロン主義哲学の概要』
★マルクス・アウレリウス『自省録』
★クセノポン『ギリシア史1』
★アテナイオス『食卓の賢人たち2』
★ガレノス『自然の機能について』
★オウィディウス『悲しみの歌/黒海からの手紙』
★イソクラテス『弁論集1』
★クセノポン『ギリシア史2』
2000年05月から第II期全31巻の刊行がはじまった。今期もほぼ月刊で刊行が続き読む側としてはうれしい悲鳴をあげるばかりだ。目下刊行された書目は以下のとおり。
★トゥキュディデス『歴史1』
★クセノポン『小品集』
★プルタルコス『モラリア6』
★プラウトゥス『ローマ喜劇集1』
★フィロン『フラックスへの反論/ガイウスへの使節』
★アテナイオス『食卓の賢人たち3』
★『初期ストア派断片集1』
★アリストテレス『政治学』
★プラウトゥス『ローマ喜劇集2』
★ウェルギリウス『アエネーイス』
★アリストテレス『魂について』
★リュシアス『弁論集』
★ピンダロス『祝勝歌集/断片選』
★プラウトゥス『ローマ喜劇集3』
★ピロストラトス/エウナピオス『哲学者・ソフィスト列伝』
★プルタルコス『モラリア2』
★アンティポン/アンドキデス『弁論集』
★クリュシッポス『初期ストア派断片集2』
★プラウトゥス『ローマ喜劇集4』
★アテナイオス『食卓の賢人たち4』
★イソクラテス『弁論集2』
当面予定されているおよそ300冊に対して、目下36冊が既刊。気の長い事業ではある。が、私のような怠け者にとってはそれだけ享楽が長続きするということでもある。引き続きたのしみたいと思う。
同じくギリシア・ローマの諸作品から未訳作品を選んで刊行中の「叢書アレクサンドリア図書館」(国文社)も全12巻の予定に対して、目下11巻を刊行している。こちらも刮目したい。