草間彌生『クサマトリックス』(角川書店、2004/04、amazon.co.jp

「クサマトリックス」展(森美術館六本木ヒルズで5月9日まで開催)で予約しておいた図録が届く。


干草が敷き詰められた部屋に配された五人の少女と三匹の犬たち(チン、トン、ポチ)と一輪の花。壁という壁、天井という天井につるされた無数の少女たちのドローイング。それはセロファン状のものにプリントされているらしく、ドローイングを透過した光が壁にあかるい影をおとし、少女たちをさらに増殖させている。その「ハーイ、コンニチワ!」(2004)がしつらえられた部屋に足を踏み入れたとたん、干草の香りが感覚を占拠して、自分が六本木ヒルズの52階にいることを忘れる。


――というか、ひとつの作品のなかにはいり、見つめ、聴くつどに、自分がどこかへ消えうせる。全面鏡張りの暗室にぼんやりと発光するいくつものLEDが群れる「蛍の群舞の中に消滅するあなた」(2004)では、文字通り自分がいなくなり、自分はすなわち無数の群舞する光になりはてる。無限のなかに消失する感覚。これはなにか。


図録の写真がフックとなって、あの空間に身をおいた記憶がぞわぞわと甦る。