2012年は、例年にもまして本を読めない年でした。かろうじて目を通すことのできたものから、特に印象に残った書物を並べてみます。なんの役に立つでもありませんが、こうしたリストを眺めるのが愉しい向きに。
■2012年新刊書から
まずは、2012年に刊行された新刊書から10冊。全てにコメントをつけたいところですが、追って記して参りたいと思います。
★アビ・ヴァールブルク+伊藤博明+加藤哲弘+田中純『ヴァールブルク著作集別巻1 ムネモシュネ・アトラス』(ありな書房、ISBN:4756612229)
http://www.hanmoto.com/bd/isbn978-4-7566-1222-9.html
なにはともあれ、労作中の労作『ムネモシュネ・アトラス』と関連するイヴェントに圧倒され続ける1年でした。美術史、文化誌を考える上で、常に座右に置かれる1冊になるでしょう。ありな書房の『ヴァールブルク著作集』(全7巻)はもちろんのこと、田中純『アビ・ヴァールブルク――記憶の迷宮』(青土社、2001; 2011、ISBN:4791766059)、伊藤博明『ルネサンスの神秘思想』(講談社学術文庫、2012、ISBN:4062920956)と併せ読みたい書物です。
★レーモン・クノー『棒・数字・文字』(宮川明子訳、月曜社、ISBN:490147796X)
http://getsuyosha.jp/kikan/isbn9784901477963.html
秋頃から、水声社の「レーモン・クノー・コレクション」を読み続け、邦訳を通じてではありますが、言語感覚や小説観をおおいに改造されました。そのクノーのエッセイを集めた本書もまた、クノーの小説と併せて読まれるべきものであります。
★『IDEA』No.345「日本オルタナ出版史 1923-1945 ほんとうに美しい本」(誠文堂新光社、ISBN:B008MADT26)
http://www.idea-mag.com/jp/publication/354.php
オルタナ編集者郡淳一郎さんのコレクションで構成された「ほんとうに美しい本」特集。ここに並ぶ書物たちを折に触れて眺めるつど、自分の書架にある本は、本のふりをした別のなにかなのではないかという気さえしてきます。毎号どんな特集を組むのかが楽しみな『IDEA』のなかでも、本年最高の1冊でした。
★マニュエル・リマ『ビジュアル・コンプレキシティ――情報パターンのマッピング――ツリーからネットワークへ 知識の体系化の歴史、ビジュアライゼーションの最前線』(奥いずみ訳、久保田晃弘監修、BNN、ISBN:4861007836)
http://www.bnn.co.jp/books/title_index/design/post_173.html
★エルヴェ・ド・サン=ドニ『夢の操縦法』(立木鷹訳、国書刊行会、ISBN:4336054940)
http://www.kokusho.co.jp/np/isbn/9784336054944/
この本については、『考える人』2013年冬号でエッセイを書かせていただきました。
★ピーター・ディア『知識と経験の革命――科学革命の現場で何が起こったか』(高橋憲一訳、みすず書房、ISBN:4622076764)
http://www.msz.co.jp/news/topics/07676.html
★田崎晴明『やっかいな放射線と向き合って暮らしていくための基礎知識』(朝日出版社、ISBN:4255006768)
http://www.asahipress.com/bookdetail_norm/9784255006765/
2011年3月11日の震災とそれに伴う東京電力福島第一原子力発電所の事故以後、放射線と人体への影響に注目が集まり、従来刊行されてきた書目に加え、多くの放射線関連の書物が刊行されてきました。私も相当数の関連書を見てきましたが、「どれか1冊を」と言われたら、目下のところ本書をお奨めしたいと思います。田崎先生のウェブサイトに掲載された文書を編集・書籍化したものです。ウェブ版も引き続き公開されています。
★フリードリヒ・デュレンマット『失脚/巫女の死 デュレンマット傑作選』(増本浩子訳、光文社古典新訳文庫、光文社、ISBN:4334752535)
http://www.kotensinyaku.jp/books/book151.html
光文社古典新訳文庫は、デュレンマットの他、後でも言及するマシャード・ジ・アシスなど、埋もれ気味の、しかし一読三嘆請け合いの作品にも光を当ててくださり、ありがたい限りです。創刊以来、全書目を読む叢書にしております。
★瀝青会『今和次郎「日本の民家」再訪』(平凡社、ISBN:4582544401)
http://www.heibonsha.co.jp/catalogue/exec/browse.cgi?code=544040
★前田勉『江戸の読書会』(平凡社選書、平凡社、ISBN:4582842321)
http://www.heibonsha.co.jp/catalogue/exec/browse.cgi?code=842032
■洋書
洋書も10冊を選んでみました。少し2011年のものも入っています。
★Sachiko Kusukawa, Picturing The Book of Nature: Image, Text, and Argument in Sixteenth-Century Human Anatomy and Medical Botany (Chicago University Press, ISBN:0226465292)
http://press.uchicago.edu/ucp/books/book/chicago/P/bo11947789.html
★Nikolaus Gansterer, Drawing a Hypothesis: Figures of Thought (Springer, ISBN:3709108020)
http://www.springer.com/architecture+%26+design/arts/book/978-3-7091-0802-4
★Andrew Hugill, 'Pataphysics: A Useless Guide (MIT Press, ISBN:0262017792)
http://mitpress.mit.edu/books/pataphysics-0
★David J. Chalmers, Constructing the World (Oxford University Press, ISBN:0199608571)
http://ukcatalogue.oup.com/product/9780199608577.do
★James R. Hurford, The Origins of Grammar: Language in the Light of Evolution II (Oxford University Press, ISBN:0199207879)
http://www.oup.com/us/catalog/general/subject/Linguistics/SociolinguisticsAnthropologicalL/?view=usa&ci=9780199207879
★Leah Price, How to Do Things with Books: In Victorian Britain (Princeton University Press, ISBN:069111417X)
http://press.princeton.edu/titles/9714.html
★Peter Burke, A Social History of Knowledge Volume II: From the Encyclopédie to Wikipedia (Polity, ISBN:0745650430)
http://www.polity.co.uk/book.asp?ref=9780745650432
★Koji Kuwakino, L'architetto sapiente: Giardino, teatro, città come schemi mnemonici tra il XVI e il XVII secolo (Leo S. Olschiki, ISBN:8822260465)
★Christopher Patton, Curious Masonry: Three Translations from the Anglo-Saxon (Gaspereau Press, ISBN:1554470935)
http://www.gaspereau.com/bookInfo.php?AID=0&AISBN=9781554470938
★magazine littèraire, No.523, Dossier Queneau
http://www.magazine-litteraire.com/mensuel/523
レーモン・クノー特集号。
■復刊・新訳・文庫化ありがとう
次に、既刊書の復刊や復刻、新訳や文庫化されたものから、やはり10冊。
★呉秀三+樫田五郎『【現代語訳】精神病者私宅監置の実況』(金川英雄訳・解説、医学書院、ISBN:4260016644)
★ホルヘ・ルイス・ボルヘス監修『新編 バベルの図書館』(全6巻、国書刊行会、ISBN:4336055270)〔刊行中〕
★パオロ・ロッシ『新装版 普遍の鍵』(清瀬卓訳、国書刊行会、ISBN:4336055335)
★ワイリー・サイファー『文学とテクノロジー――疎外されたヴィジョン』(高山宏セレクション〈異貌の人文学〉、野島秀勝訳、白水社、ISBN:4560083010)
★グスタフ・ルネ・ホッケ『文学におけるマニエリスム――言語錬金術ならびに秘教的組み合わせ術』(種村季弘訳、平凡社ライブラリー、ISBN:4582767699)
★多和田葉子『飛魂』(講談社文芸文庫、講談社、ISBN:4062901730)
★イスマイル・カダレ『夢宮殿』(村上光彦訳、創元ライブラリ、東京創元社、ISBN:4488070701)
★ミシェル・フーコー『知の考古学』(慎改康之訳、河出文庫、河出書房新社、ISBN:4309463770)
★フランク・ウィルチェック『物質のすべては光――現代物理学が明かす、力と質量の起源』(吉田三知世訳、ハヤカワ文庫ノンフィクション、ISBN:4150503842)
★マシャード ジ・アシス『ブラス・クーバスの死後の回想』(武田千香訳、光文社古典新訳文庫、ISBN:4334752497)
■古典再発見
新刊書とは関係なく、さまざまな経緯で再遭遇を果たして興奮した書物から5冊。
★夏目漱石『文学論』(亀井俊介注解、岩波文庫、ISBN:4003600142)
★Vladimir Nabokov, Ada, or Ardor: A Family Chronicle(Vintage International, ISBN:0679725229)
翻訳を復刊して欲しい作品。
★Raymond Queneau, Une Histoire Modèle (Gallimard, ISBN:2070130967)
★John Stuart Mill, A System of Logic, Ratiocinative and Inductive (Collected Works of John Stuart Mill, Liberty Fund, ISBN:0865976929)
★『文選』(新釈漢文大系、明治書院、ISBN:4625570794)
■番外
その他、以上の区分とは別に5冊(組)。
★「レーモン・クノー・コレクション」(全13巻、水声社)〔刊行中〕
★『円朝全集』(全13巻別巻2、岩波書店、ISBN:4000927418)〔刊行中〕
★Oxford Latin Dictionary: Second Edition (Oxford University Press, ISBN:0199580316)
★磯野直秀『日本博物誌総合年表』(平凡社、ISBN:4582512305)
★『『思想』の軌跡 1921-2011』(岩波書店、ISBN:4000258303)
――と、結局40冊も並べてしまいました。ここでは書名を挙げられなかった本もたくさんありますが、2012年もたくさんの素晴らしい書物との出会いがありました。
ネットの孤島のような拙ブログでありますが、こうして書き留めておくことで、どなたかが書物と遭遇するきっかけにならないとも限りません。自分のための覚書としても、遭遇した書物については、そのつど当ブログでもこまめにご紹介してゆくようにしたいと思います(Facebookでは、比較的高い頻度で本の紹介をしております。気になる方はお声かけいただければ幸いです)。
それはともあれ、書物をつくり、世に送り出すことに関わるすべての皆さんに感謝したいと思います。ありがとうございました。2013年もどうぞよろしくお願い申し上げます。