久しぶりに、コンスタンス・リード『ヒルベルト 現代数学の巨峰』(彌永健一訳、岩波現代文庫学術240、岩波書店、2010/07/16)を読んでいたら、ヒルベルトが若い頃、エミール・デュ・ボア=レーモン(Emil du Bois-Reymond, 1818-1896)の本が広く読まれたという記述に出会った。
このくだり、以前はするっと読み流したところだけれど、このたびは関心の所在が違っているのか、このくだりに目が留まったのだった。
デュ・ボア=レーモンの著作のなかでも論争を巻き起こした「自然認識の限界について」「宇宙の七つの謎」は、タイトルの通り、自然についての認識に限界があるという話をしている。
この二つの講演を収めた翻訳が岩波文庫に入っており、いま私の手元にあるのは以下の本。
デュ・ボア・レーモン『自然認識の限界について・宇宙の七つの謎』(坂田徳男訳、岩波文庫青923-1、1929;第5刷、1988)
デュ・ボア=レーモンの邦訳としては、もう1冊『生命と思索』という本があるらしいのだけれど、まだ実物を見る機会がない。
そこで、ドイツ語なり何語なりかで全集が出ていないかしらと思って、少し調べてみたものの、それらしいものには遭遇していない(すぐ全集に頼る)。
もっともこの頃には、自然科学方面の書き物は雑誌に論文を投稿する形が定着してもいただろうから、そうした書き物が多いのかもしれない。
Wikipediaの日本語、英語、ドイツ語、フランス語でデュ・ボア=レーモンの項目を見てみたところ、彼の著作についてまとめているのは、ドイツ語のみのようだった(見落としているかもしれない)。そのドイツ語版Wikipediaには6点が掲げられている。
1860 Gedächtnissrede auf Johannes Müller.〔ヨハネス・ミュラー追悼〕
1872 Über die Grenzen des Naturerkennens.〔自然認識の限界について〕
1875-1877 Gesammelte Abhandlungen zur allgemeinen Muskel- und Nervenphysik. 〔筋肉・神経物理論文集〕
1881 Untersuchungen am Zitteraal.〔デンキウナギ論〕
1886/1887 Reden. 2 Bände.〔講義集〕
1912 vervollständigte Auflage ebenda, hrsg. von Estelle Du Bois-Reymond〔同完全版〕
1858- Archiv für Physiologie. (『生理学アーカイヴ』誌編集)
『岩波 世界人名大辞典』(岩波書店)の「デュ・ボワ=レモン」の項目と下で触れるマックスプランク科学し研究所のサイトに掲載された略歴によれば、デュ・ボア=レーモンは、1837年からベルリン大学で神学、哲学、心理学を学んだ。1838年から39年にかけては、論理学、形而上学、人類学、それと植物学、鉱物学、地理学、気候学をボン大学で学んだという。その後ベルリン大学に戻ってJ. P. ミュラー(1801-1858)の下で医学を修め、後にミュラーの後任としてベルリン大学教授に就いている(1858)。彼が専門とした生理学の方面では、動物電気、神経や筋肉における電流現象を中心に研究にとりくんだ。
マックスプランク科学史研究所のサイトにあるデュ・ボア=レーモンのページには、5冊の著作が並べられている。
1848 Untersuchungen über thierische Elektricität, Erster Band.〔動物電気研究〕
1849 Untersuchungen über thierische Elektricität, Zweiter Band
1860 Untersuchungen über thierische Elektricität, Zweiter Band
1884 Untersuchungen über thierische Elektricität, Zweiter Band
1875 Gesammelte Abhandlungen zur allgemeinen Muskel- und Nervenphysik, Erster Band〔筋肉・神経物理論文集〕
このリストも"Selected works"とあるから、もちろん仕事の一部を載せたもの。
上記のページからリンクされている同サイトのデータベースを"du bois reymond"で検索した結果には、597件がヒットする様子。これは後で確認・整理することにしよう。
それとは別に、De Gruyterのサイトでエミール・デュ・ボア=レーモンを検索すると、21件がヒットする。ざっと見たところ、1851年から1916年までの刊行年をもつ書物が16点載っている。これも後で確認・整理することにしよう。
また、こういう場合、評伝が役に立つ。と思って探してみたら、10年ほど前にMIT Pressから、ガブリエル・フィンケルシュタイン『エミール・デュ・ボア=レーモン──19世紀ドイツにおける神経科学・自己・社会』という評伝が刊行されていることを知り、これを注文してみた。欧文書誌は以下の通り。
Gabriel Finkelstein, Emil du Bois-Reymond: Neuroscience, Self, and Society in Nineteenth-Century Germany (MIT Press, 2013) [MIT Press]
YouTubeにフィンケルシュタインさんの講義動画「フランス起源の電気生理学」がありました。フランスのボルドー大学が開設しているBordeaux Neurocampusというチャンネルです(英語、57分)。
国立国会図書館デジタルコレクションで調べてみたところ、以下の本が収録されていました。
・『デュ・ボア・レイモン科學論集』(西郷啓造編纂、柏葉独逸語叢書 第3
収録されているのは以下の3編のようです。
・Tierische Bewegung
・Über die Grenzen des Naturerkennens
・Die sieben Welträtsel
・『デュ・ボア・レイモン科學論集』(西郷啓造編纂、尚文堂、1930/09)[NDL]
内容は上記の柏葉書房版と同じようです。