蒐書録#023:マイケル・ベンソン『世界《宇宙誌》大図鑑』

『文学問題(F+f)+』(幻戯書房)の校了が迫っている。もう少しだ。

となってくると、意識は勝手に次の仕事のほうへも向いてゆく。

文学論の直後は天文学論を少々(執筆・翻訳中の本のあいまに)。

文学の頭に「天」がつけば天文学である。

文学の頭に「人」がつけば人文学である。

理(ことわり)としてもよさそうなところ、文(あや)を読む学というのがなんだか面白い。

天文学、特にこのたびは天文学史、宇宙誌方面に目を向けつつある。

そのつもりで天文学書コーナーをぶらぶらしていたら、この本が目に入った。

 

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★マイケル・ベンソン『世界《宇宙誌》大図鑑』(野下祥子訳、東洋書林、2017/10)

 Michael Benson, Cosmigraphics: Picturing Space through Time (2014)

 

原題にコスミグラフィクス(Cosmigraphics)とあるのを見て、コスモグラフィクス(Cosmographics)ではないのですね、イタロ・カルヴィーノに『コスミコミケ』という小説があったのを思い出しますな。

などとページを繰ると、エピグラフにカルヴィーノが登場して、思わず声が出る。

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『世界《宇宙誌》大図鑑』(Cosmigraphics)というタイトルと、宇宙を背景とした表紙を見て、子どもの頃愛読していた図鑑『宇宙』のことを思い出していたのだと思う。どちらかというと素っ気ないくらいの感じで、淡々と宇宙図を並べた本なのではないかと思い込んでいたわけである。

ジェラール・ジュネットに倣って、本文の周囲にある本文とは別の各種文字要素をパラテクストと呼ぶことにすれば、表紙と遊び紙2枚をめくったところ、3枚目に眼にした紙に置かれた題辞(エピグラフ)というパラテクストひとつで、思い込みを突き崩された格好である。

表紙を繰る直前まで、どちらかというといわゆる真顔でいたはずだが、エピグラフを見て「あはは、いいなあ」と急に好感度が急増したりして、誠に人間は勝手なものである。そしてこれは理屈でそう考えるというものではなく、自分でも思わずそう感じてしまう種類のことだ。情緒が動くとはこういうことだ。

 

ああびっくりした、と気を落ち着けながら序文に進むと冒頭はこんな具合に始まる。

イタロ・カルヴィーノであれば、本書の題辞から内容を見抜こうとすることだろう。同様にイメージであれテクストであれ、そうしたものはそれ自体のしるしを通して理解される。人は、何かを介して大いなる宇宙と交流している。言葉の世界を創り、絵画の宇宙を創る。これらなくして、対象物は存在しないかもしれない。

思いがけない書き出しに出会って心を掴まれる。

入り口の説明を拝聴して「創造」と題された第1章に入ると、最初に現れるのは、ロバート・フラッド『両宇宙誌』所収の、「創造の光に先立つ黒い虚空という核心的な描写」のページ。つまり、黒い。

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もう、絶対おもしろいやつだよ、これ。