目につくところに

書くことを約束している本が、何冊かありながら、なかなか書きあげられずにいる。

本を書いたり訳したりするのは、長距離走のようなもので、日々少しずつでもいいから、立ち止まらずに進めるのがよい。

分かってはいるのだけれど、すぐ目の前にやってくる短距離走のような仕事にとりくんでいると、すぐに1カ月が経ってしまう。

とはいえ、そんなことばかり言っていても前に進まない。そこで考えた。

執筆する予定の本の企画書(概要と目次)をプリントアウトして、仕事机で常に目に入る場所に置いてみたらどうか。

コンピュータのデスクトップにも、同じような表示をしてはいるものの、その他の仕事とともに並べてあるせいか、目に入りづらい。

本の企画のプリントアウトなら、それ以外の仕事に紛れ込まず目につく。

かといって、十数冊分を全部プリントアウトすると、今度はプレッシャーが強すぎる。

そこでさしあたり進める3冊分を印刷して、机に置くようにした。

これは存外効果がある。

なにしろパソコンを起動していないときでも目に入る。朝、仕事をはじめるためにPCのスイッチを入れて使えるようになるまでの時間でも、スイッチを切ってからの時間でも、画面から目を離してお茶を飲むあいだでも、いつでも。

そのおかげかどうかは分からねど、この夏に懸案のうち、企画書をプリントアウトしておいたうちの1冊を書き上げることができた(もちろん担当してくださっている編集者さんによるサポートもあってのこと)。目下は、再校のゲラを確認中である。

書き終えた本の企画書は片付けて、次の本にとりくむ。

あくまでも私の場合だけれど、どうも自分がぼんやりしていようが、向こうから目に飛び込んでくるようなモノの力が必要なようだ。

コンピュータはコンピュータでおおいに使うとして、他方で本に囲まれる生活をやめられないのも、ひとえにその辺りに理由がある。

ということを、この秋に刊行される本にも書いてみた。

題して『記憶のデザイン』(筑摩書房)という。最後は宣伝のようになった。