マイクロノヴェルとしての『伊勢物語』

久しぶりに『伊勢物語』を通して読んでみた。

「むかし、をとこありけり」といって始まる恋物語。

むかしは全然そういうことが気になっていなかったけれど、いま読むと、断章形式の構造で、なんだかゲームAIにいろいろなパターンの恋愛行動をとらせた結果をレポートしたものを読んでいるような気分になる。

私が好きなのは、35番目の断章で、男がむかし関係をもった女に、よりを戻したいものですな、といった意味の歌を贈ったところ、女はなんとも思わなかったようで、返事がなかった、というもの。

原文でもたった3行。

むかし、ものいひける女に、年ごろありて、

いにしへのしづのをだまき繰りかへし昔を今になすよしもがな

といへりけれど、何とも思わずやありけむ。 

 (大津有一校注、岩波文庫版、28ページから)

Twitterでときどき見かけるマイクロノヴェルのよう。オチもあるようなないような感じで、しかしすぱっと終わる潔さもよい。

というのは、あくまでも2021年現在の私の感覚でのことだけれども。

 

『伊勢物語』(大津有一校注、岩波文庫黄8-1、岩波書店、1964;第69刷、2020)

 

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