★上田紀行『生きる意味』(岩波新書新赤931、岩波書店、2005/01、amazon.co.jp)#0121
著者・上田紀行(うえだ・のりゆき, 1958- , 文化人類学)は、現代を「生きる意味の不況」ととらえる。バブル経済が崩壊したとはいえ、ほんとうに貧病が猖獗(しょうけつ)を極める経済的な後進国と比べれば、格段に豊かなこの社会で、なぜ「生きる意味」が見えないと感じる人が増えているのか。
著者はつぎのように見立てる。経済が上向きのときには自分が何を欲しているのかにかかわらず、他人が欲するものを求めてお金をまわしていればよかった。
「自分が何を欲しているのか」よりも「他の人が何を欲しがっているのか」を自動的に考えてしまうような「欲求」のシステムを私たちはずっと生きてきた。しかし、それは実はひとりひとりにとっては楽な社会であったとも言える。なぜならそのような社会では「自分の頭」や「自分の感性」をほとんど使わなくてもいいからだ。いま社会で求められていそうな線を狙って生きていけばいい。自分は何が欲しいのか、自分にとっての人生の意味や幸福は何なのかなどという、私の「生きる意味」など突き詰める必要はなかったのである。
(同書、p.17)
けれども、バブル経済の崩壊とともに「私と一緒に欲しがっていたはずの他者は忽然と消え去ってしまう」(p.19)。そうして欲しくもないものとそれを購うためにした借金だけが手元に残り、自分の欲するものがわからないままでいる、という次第。
私たちの「生きる意味」の豊かさを取り戻すこと。そのためにこの本は書かれている。何が私たちから「生きる意味」を奪っているのか。その原因を探り出し、そこを突破して、いかに自分自身の人生を創造的に歩むことができるかを考えたい。そしてひとりひとりの生きる意味に支えられた、真に豊かな社会の未来図を描きだしたい。
(同書、p.ii)
以上のモチーフにお心当たりのある読者はお手にとられたい。以下の目次をながめると、著者がどのようなストーリーを描こうとしているのかが見えると思う。
はじめに
I 「苦悩」の正体
第1章 「生きる意味」の病
第2章 「かけがえのなさ」の喪失
II 数値化と効率化の果てに
第3章 グローバリズムと私たちの「喪失」
第4章 「数字信仰」から「人生の質」へ
III 「生きる意味」を創る社会へ
第5章 「苦悩」がきりひらく「内的成長」
第6章 「内的成長」社会へ
第7章 かけがえのない「私」たち
あとがき
参考文献