★Katie Salen + Eric Zimmerman, Rules of Play: Game Design Fundamentals(MIT Press、2003/11、ISBN:0262240459)
本書は、ゲームのデザイン(設計)を理論的かつ実践的に考察する書物である。
ここで「ゲーム」とは、ヴィデオ・ゲームやコンピュータ・ゲームはもちろんのこと、ボード・ゲームや戦略シミュレーションなど、アナログなゲーム全般も含まれている。
ヴィデオ・ゲーム(以下断りのない限り、「ゲーム」と略記)の開発現場でもっとも困っていることのひとつに、ゲーム・デザインに関する教育の問題がある、と思う。大ざっぱにいうと、ゲーム開発には、ゲームのアイデアと内容を考えるゲーム・デザインとそれをソフトウェアにしたてあげるプログラム、絵や音をつくるグラフィック・デザイン、サウンド・デザインの四つの要素がある。このうち、プログラムについては膨大な文献が刊行されている。技術の問題なのでどのようにすればよりメモリ効率をよく処理を組み立てられるか、とか、より可読性のコードを書くにはどうしたらよいか、とか、3Dのグラフィックスを処理する方法など、技術論的に記述/解説できるトピックがいくらでもあるからだ。また、グラフィックとサウンドについては、ゲーム以前に、美術や音楽の領域の膨大な蓄積がありまた、それらのデータを作成するために必要なアプリケーションの活用マニュアルもたくさん出ている。
問題は、ゲーム・デザインである。いったい何を学べばゲーム・デザインができるようになるのか、そもそもゲームとは何なのか、ゲームが面白いというのはどういうことなのか、どうしたらそうした面白いゲームを作れるのか……云々、と他の領域同様にゲーム・デザインにまつわるトピックスは無数にある。しかし、ゲーム・デザインについて教えてくれる本はけっして多くはない(少なくとも日本語では)。いろいろな原因が考えられるけれど、最低限いえるのは、ゲーム研究が発展途上にあってゲームを分析するための言葉がまったく足りていないということだ(この状況は映画の黎明期を想起させる)。たとえば、なぜ『テトリス』がおもしろいのかを分析するだけでもきちんとやろうと思ったら相当たいへんなことである(逆に言えばそういうことをきちんとやってみたい人にとっては未開拓の領域が広がっている)。
では現場ではどうしているのかというと、私が知る範囲では、ほとんど職人の世界である。プログラムのように習得すべき技術が明示されるわけでもない状況で、これからゲーム・デザインに携わろうという人は、とにもかくにも先輩たちがどのようにゲームをつくりあげてゆくかを実地で見るほかにない。よくできたテキストブックでもあれば、「まずはこれを読みたまえ」といって、ゲームを作る眼、ゲームを見る眼を養うヒントを与えることもできよう。しかし体系だった知識というものはほとんど皆無に等しく、デザイナーは経験の積み上げのなかで自己を鍛錬してゆくしかないのだ。
そこへもってくると本書は、よりよいゲームを作りたいと思い、また、そのために自分を鍛錬したいと思っているゲーム・デザイナーにうってつけの一冊である。著者たちのねらいは明確だ。どうしたらもっとゲームを理解し、さらにおもしろいゲームをつくるための手立てを得られるか? そのためにはどんな道具を用意したらよいか? こうした実践的な問題に対処するためのツールたること、これが本書の目的である(だからもし、MIT出版という版元をみて、本書がアカデミックにゲームを論じる本、ゲームのための議論ではなくゲームを学問のダシにしている本ではないかと疑念を抱いている人がいたらその点はご安心いただきたい)。
たしかにこの本を読んでゆくと、グレゴリー・ベイトソンやらクリストファー・アレグザンダーやホイジンガといった他分野の名前が召喚されている。しかしそれは、彼らが精神科学や建築や歴史についてつくった既存の概念(モノサシ)をゲームにあてがうためではない。主眼はあくまでもゲームが内在させているエッセンスをうまく考察することであって、モノサシの切れ味をデモンストレーションすることではない。そしていまのところこのような姿勢で書かれたゲーム・デザイン論は(しつこいようだが日本語では)あまり見かけないものだ。
本書は四部から構成されている。「第一部 コア・コンセプト(中核概念)」では、「プレイ」「デザイン」「システム」「インタラクティヴィティ」といったゲームやゲーム・デザインにおいて重要な役割をもつさまざまな概念が検討され、本書がゲーム・デザインに接近するさいの分析の骨法が提示される。続く「第二部 ルール」では、ゲームの実体ともいえるルールを、さまざまな角度から考察する。このルールの考察がどちらかというと静的な側面の分析だとすれば、「第三部 プレイ」ではそうしたルールが潜在させるものをプレイヤーが関わることでどのように顕在化されるかという動的な側面が俎上に載せられる。最後に「第四部 文化(カルチャー)」では、文化的な産物でもあるゲームをさらに広い文脈でとらえなおすさまざまな試みが行われている。
もちろん、本書に書かれていることがすべてそのままどのようなゲームにも妥当するということではない。しかしながら、ゲームを対象化するための言葉を欠いている現状を鑑みれば、ここにつめこまれたたくさんの道具や道具未満の萌芽は、それだけでも十分ありがたいものばかりだ。ここから受け取った道具を自分なりに改良してゆくのも歓迎される使い方である。
600ページを超えるヴォリュームを一通り読破するのは簡単なことではないけれど、上記した各部はさらに5から10程度の項目にわけて書かれているので、興味ある項目から拾い読むのもよいだろう。
目次をやや詳しく掲げておこう。
Foreword:Frank Lantz
Preface
1 About This Book
2 The Design Process
Commissioned Essay: Relner Knizia
■Unit 1: Core Concepts
3 Meaningful Play
4 Design
5 Systems
6 Interactivity
7 Defining Games
8 Defining Digital Games
9 The Magic Circle
10 The Primary Schemas: RULES, PLAY, CULTURE
Commissioned Game: Richard Garfield
■Unit 2: RULES
11 Defining Rules
12 Rules on Three Levels
13 The Rules of Digital Games
14 Games as Emergent Systems
15 Games as Systems of Uncertainty
16 Games as Information Theory Systems
17 Games as Systems of Information
18 Games as Cybernetic Systems
19 Games as Game Theory Systems
20 Games as Systems of Conflict
21 Breaking the Rules
Commissioned Game: Frank Lantz
■Unit 3: PLAY
22 Defining Play
23 Games as the Play of Experience
24 Games as the Play of Pleasure
25 Games as the Play of Meaning
26 Games as Narrative Play
27 Games as the Play of Simulation
28 Games as Social Play
Commissioned Game: Kira Snyder
■Unit 4: CULTURE
29 Defining Culture
30 Games as Cultural Rhetoric
31 Games as Open Culture
32 Games as Cultural Resistance
33 Games as Cultural Environment
Commissioned Game: James Ernest
■Contents
Additional Reading and Resources
Conclusion
Bibliography
List of Games Cited
Index
なお、同じ著者たちによる近刊書として、The Game Design Reader: A Rules of Play Anthology(MIT Press, 2005/12予定)が予告されている。こちらは、古今のゲーム・デザイン論やゲーム批評を集めたアンソロジーのようだ。刊行を楽しみに待ちたい。
⇒ericzimmerman.com(英語)
http://www.ericzimmerman.com/
著者の一人ジマーマン氏のウェブサイト
⇒Rules of Play(英語)
http://www.rulesofplay.net/
同書の公式サイト
⇒MIT Press > The Game Design Reader(英語)
http://mitpress.mit.edu/catalog/item/default.asp?ttype=2&tid=10659