蒐書録#011:ステファン・グラビンスキ『火の書』ほか

世界にはすでに山ほどの本があり、こうしているうちにも新たな本が続々と世界中で生まれております。

そうしたなかから、何の因果かたまさかわたくしの手元に到来したもの(の一部)を写真つきでご紹介するのが、この「蒐書録」のコーナーです。

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★ステファン・グラビンスキ『火の書』(芝田文乃訳、国書刊行会、2017/08)

 Stefan Grabiński, Księga ognia (1922)に収録された9篇のうち8篇と単行本未収録の短篇「有毒ガス(Czad)」、エッセイ「私の仕事場から」「告白」、インタヴュー「ステファン・グラビンスキとの一つの対話」を収めた日本独自の短篇集。編訳は、同じくグラビンスキの『動きの悪魔』と『狂気の巡礼』を翻訳している芝田文乃さん。

 この本を買った日、帰りの電車で読み始め、駅を乗り過ごした。芝田さんの日本語を介して感知されるグラビンスキの静かで大仰なところのない文体を好ましく思う。

 『動きの悪魔』の帯に「ポーランドのラヴクラフト」という形容があって、これは私もそうだったけれど、グラビンスキを知らない潜在的な読者へのアピールとしては効果がある(未知を既知になぞらえる作戦)。他方で、いま述べた文体の点で、ラヴクラフトとはだいぶ異なるタッチをもった作家だと思う。

 淡々と語り進められる出来事を追っているうちに、どこでなにが狂い始めたのか分からないまま、目の前に怪異現象が生じて巻き込まれており、当然原因などよく分からないまま、呆気にとられて終わる。映画でいえば、余計なBGMなどをつけず、わざとらしい説明台詞なども入れず、ショットの積み重ねからひたひたと恐怖がにじみ出るような、そんなスタイルだ。

 一作を読み終えるたび、「続きは明日の楽しみにしよう」と思うのに、つい二つ目を読んでしまう。「病み憑き」とはよく言ったものだ(帯文)。

 なお、訳者の芝田さんがこんなツイートをしておられる。

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★グレアム・ハーマン『四方対象――オブジェクト指向存在論入門』(岡嶋隆佑監訳、山下智弘+鈴木優花+石井雅巳訳、人文書院、2017/09)

 Graham Harman, The Quadruple Object (Zero Books, 2011)

 邦訳が現れたこの機に「オブジェクトとはなにか」というところから改めて考えてみたい。そういえば、オブジェクト指向プログラムの解説をする際にも、オブジェクトとはなにかを理解してもらえるようにするのは、結構苦心するのであった。

 

★本の雑誌編集部編『古典名作本の雑誌』(別冊本の雑誌19、本の雑誌、2017/08)

 世の中にはリストを眺める愉悦というものがあって、学校で講義をする折りなどは、講義のテーマがなんであれ、このことをお伝えしたいと念じている。本書は、海外文学(イギリス、フランス、ドイツ、ロシア、中東欧、南欧、アメリカ、ラテンアメリカ、中国)、国内文学(中古、中世、江戸、明治、大正・戦前、戦後昭和、短歌、日本文学黎明期、『源氏物語』現代語訳読み比べ)、エンターテインメント(国内ミステリー、海外ミステリー、国内SF、海外SF、恋愛小説、青春小説、男性作家エッセイ、女性作家エッセイ、児童文学、ノンフィクション)といったブックガイドに加えて、対談、作家たちによる「私が打ちのめされた古典名作」など盛りだくさん。さあ、ペンを片手にページを繰ろう。え? なにをするのか? そらあなた、ブックリストを見たら、「これは読んだ」「これはある」「これは読みたい」ってマークをつけるに決まってるじゃないですか。

 

★『ユリイカ』第49巻第17号通巻710号2017年10月臨時増刊号「蓮實重彦」(青土社、2017/09)

 『ユリイカ』がいつ特集を組むか、と勝手に気にしているテーマがいくつかあって、蓮實重彦氏はそのひとつだった。私も蓮實さんが書いたものは、手に入るだけ読んできたので、各方面の論者たちがどう読んでいるのか、とても楽しみにしている。日本の書き手で、はじめて読んだとき、これはどうしたものか……と感じた物書きを挙げるとしたら、吉田健一、廣松渉、吉本隆明、蓮實重彦が四天王だろうか。文体のキャラ立ちが凄いと申しましょうか。いつか検討してみとうございます。