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荒木経惟『写真論』より
「写真はものの見方をどのように変えてきたか 第4部 [混沌]」東京都写真美術館


写真の誕生を概観する第1部、19世紀末から1930年代のモダニズムの時代を検証する第2部、日本の1930年代から1960年代における写真史の紆余曲折を12名の写真家の仕事で辿った第3部につづいて、1970年代から現在に至る写真のあり方をさまざまな作品で構成する第4部。アメリカ、ヨーロッパ、日本、その他というカテゴリーで数冊のポートフォリオを含めた80余点を展示している。


ダイアン・アーバス(Diane Arbus, 1923-1971)の死から説き起こすこの展覧会は、シンディ・シャーマン(Cindy Sherman, 1951- )、アンディ・ウォーホルAndy Warhol, 1928-1987)、ロバート・メープルソープ(Robert Mapplethorpe, 1946-1989)、荒木経惟(あらき・のぶよし, 1940- )、森山大道(もりやま・だいどう, 1938- )といった写真の門外漢にもなじみのある作家の作品をはじめ、記録、報道、創造といったこれまでの3つの部で確認された写真の潜在性はもちろんのこと、いまや自らの存立条件をさまざまに問い直す現代美術としての試みまでもが一堂に会している。



ドゥェイン・マイケルズ(Duane Michals, 1932- )の「写真では見えないけれどここに存在するもの(There are Things Here not seen in this Photograph)」(1977)は、ジュークボックスが置かれた酒場の光景(無人)を写した作品だが、余白に文章が書き込まれている。読むと、汗で濡れたシャツ、ビールの味、人の声といった写真に写らないことがらが一人称(主観的な意識もまた写真に写らない)で書かれている。岡崎乾二郎のやたらと長いタイトルを冠された作品のように、写真を観ているはずなのだけれど延々言葉を読むはめになり、読めば写真に写らない感覚について語られているという趣向、手書きの(書き損じを含めた)文字とあいまって笑いを催させもする。当たり前のことに過ぎないけれど、ドゥェイン・マイケルズがここに書き付けた言葉は、そのままどの写真を観るおりにもついてまわる確固たる事実なのだった。


⇒photography temple > Duane Michals(英語)
 http://www.temple.edu/photo/photographers/michals/duane.html


いまやディジタル・カメラの普及によって、こうしている瞬間にも誰が観るのかわからないほどたくさんの写真が無数の人/機械によって撮影されている。いまさら「イメージの氾濫」といってみてもなにも把握したことにはならないけれど、そうした天文学的な量に及ぶイメージの一枚をいま目の前に見ているのだと思うと、それが作家として聖別された人物による写真であろうとアマチュアによるものであろうと、なにか同質の眩暈を感じはしないだろうか。書物や音楽や映画やゲームがどれほど大量に作られているといっても写真の物量とは比べ物にならない。もちろん他方で人はどれだけ寝食を忘れようと、写真を撮り尽くすことは出来ない。たとえ同時に100台のカメラを駆使したとしても、それで撮ることが出来るのは、ある瞬間の100箇所からの眺めだ。次のシャッターを押すまでのあいだにも、時間は流れ去り世界は変化している。「この光はいまこの瞬間にしかありえないのだから、いま‐ここが緊急事態だ」(大意)と映画について述べたゴダールの言葉は、写真にもそのままあてはまる。いや、映画よりさらに事態は深刻とも言えるかもしれない。


(性能の良し悪しはともあれ)携帯電話に組み込まれることでさらに普及の度合いを進めたカメラは、ことによったらより多くの「緊急事態」に対処できる力を手にしたのだと考えてみることもできるだろう。とはいえ、識字率の高い場所(文字という道具が行き渡った場所)から優れた文学が多く出るとは限らないように、道具が行き渡ったからといって創造が促進するとは限らない。なんだか当たり前のことを述べているようだけれど、カメラと写真という表現は、そうした量と質の関係を考えさせる要素があるように思う。


先に書影を掲げた書物『写真の歴史入門 第4部「混沌」——現代、そして未来へ』とんぼの本、新潮社、2005/09、amazon.co.jp)は、本展覧会の図録に該当するもので、一部ごとに一冊で都合四冊が刊行されている。


なお、本展覧会の会期は2005年11月6日(日)まで。




⇒作品メモランダム > 2005/08/20
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20050820
 第3部「再生」についてのメモランダム


⇒作品メモランダム > 2005/06/25
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20050625
 第2部「創造」についてのメモランダム


⇒作品メモランダム > 2005/05/06
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20050607
 第1部「誕生」についてのメモランダム


東京都写真美術館
 http://www.syabi.com/