★種村季弘『ザッヘル=マゾッホの世界』(平凡社ライブラリー518、平凡社、2004/11、amazon.co.jp)#0343
管見によると目下、日本語で読めるザッヘル=マゾッホの評伝としては、唯一の作品。著者は、惜しくも昨年の夏に亡くなったドイツ文学研究者の(という肩書きには到底収まりきらない人物)種村季弘(たねむら・すえひろ, 1933-2004)氏。
本書は、レオポルト・フォン・ザッヘル=マゾッホ(Leopold von Sacher-Masoch, 1836-1895)の誕生から没するまでの生涯を追った評伝。折々の女性との関係と作品を中心に据え、そこにオーストリアの激動する歴史・文化的背景を交えながらザッヘル=マゾッホの生の軌跡を闊達に描きだしている。若干20歳にしてカイザー・フランツ大学の私講師に就いた歴史学徒はいかにして作家になったのか?
本書の初出は、『ユリイカ』(青土社)の1977年2月号から1978年4月号まで連載された「ザッヘル=マゾッホの世界」(全14回)。1978年7月に「終章」を付して桃源社から刊行され、のち筑摩叢書に収録(1983年12月)。2004年の年末に上に書誌をかかげた平凡社ライブラリーに入った。
クラフト=エビング(Richard von Krafft-Ebing, 1840-1902)の『性の心理学』(1886)によって、「マゾヒズム」という言葉に閉じ込められてしまった作家を墓の下で涙させないためにも本書が文庫として装を改めたことを歓迎したいと思う。
マゾッホについては、昨年、平野嘉彦『マゾッホという思想』(青土社、2004/06、amazon.co.jp)という書物が刊行されている。
⇒種村季弘のウェブ・ラビリントス
http://www.asahi-net.or.jp/~jr4y-situ/tanemura/t_index.html
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