パウルフランクル『建築史の基礎概念——ルネサンスから新古典主義まで』(香山壽夫監訳、SD選書240、鹿島出版会、2005/08/25、amazon.co.jp
 Paul Frankl, Die Entwicklungsphasen der neueren Baukunst(B.G.Teubner, 1914)


パウルフランクル(Paul Frankl, 1878-1962)による建築造形論の古典的作品。以前、『建築造形原理の展開』鹿島出版会、1979)として刊行された邦訳書を、このたびSD選書の一冊(240番)として復刻したもの。


(西洋)建築における様式の変化を、「空間形態」「物体形態」「可視形態」「目的意図」の四つの観点から探究している。対象となる時代は、ルネサンス(1420‐1550)、バロック(1550‐1700)、ロココ(18世紀)、ネオ・クラシシズム(19世紀)の四区分。

・日本語版への序文
・原著者による序文
・問題と方法——原著者による序説
・第一章 空間形態
 ・宗教建築
 ・世俗建築
・第二章 物体形態
・第三章 可視形態
・第四章 目的意図
・第五章 四段階に共通する特徴と相異なる特徴
・訳者あとがき


著者は序文でこんな注意を与えている。

本書における論議は文献資料に関する広範な知識を要求するものではないが、建築作品に関する多くの知識を必要とする。第一章で扱われる教会堂と宮殿の多くを見たことがない人は——もしできたら、できるだけ多く見ておいてもらえるとよいのだが——、読むのに困難を感じるであろう。幾何学的な記述を退屈でうんざりだと感ずる人は、建築史の研究に基本的にむいていない。そうした人は残りの章だけを読んだらよい。それでもまだこれが呑み込みにくい食事だとすれば、わたしの差し出すご馳走は、たとえ噛みにくくとも、せめて滋養に富むものであってほしいと願っている。

(同書、19ページ)


邦訳版では、250近い図版が入っているので——もちろん実物を見る代わりにはならないものの——著者が心配している以上に読みやすくなっているのではないかと思う(独語版の図版は50枚とのこと)。


また、建築とは関係ないことだが同序文に見える、

わたしはまた良い書物に対してだけでなく悪い書物の著者たちに対しても感謝すべきであろう。というのは長い眼で見ると、悪書はしばしば良書よりも刺激的である場合があるからである。それらの出版も無意味なわけではない。万一、本書が悪書のうちに数えられることになったとしても、同様の判定が下ることを希望するものである。

(同書、18ページ)


だなンていう一言がなんだかうれしい。ときとして悪書・駄本から教えられることも多い。なによりも、そうした書物が論じている事柄に接して「ンなこたァない」とつっこみたい気持ち、「莫迦も休み休み言いたまえ」と言いたくなる気持ちをそそられると同時に、なぜ「ンなこたァない」のか、なぜそれが「莫迦」なことなのかを(本当にそうなのかも含めて)改めて考えさせられもするからだ。ものを考えるための食前酒(あるいは起爆剤)として、愚書・悪書はなかなか悪くないものだと思う。ちなみに本書は少なくとも愚生にとっては愚書・悪書ではない。勉強になる一冊だ。


いまさら門外漢の私が言うことでもないけれど、SD選書は、建築関連の必読書が多数収録されていてたいへんありがたい叢書のひとつだ(できれば既刊分を全部読んでしまいたい)。ここでも機会を設けて少しずつ紹介していきたいと思う。品切れ書目も多いので、順次増刷をしていただけたらなお嬉しい。


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