★イマヌエル・カント『純粋理性批判(下)』(原佑訳、平凡社ライブラリー553、平凡社、2005/09、amazon.co.jp)
Immanuel Kant, Kritik der reinen Vernunft
イマヌエル・カント(Immanuel Kant, 1724-1804)の主著のひとつ『純粋理性批判(Kritik der reinen Vernunft)』の邦訳書。全三分冊の三冊目が刊行されて完結。目下文庫で読める『純粋理性批判』としては、天野貞祐訳(講談社学術文庫版/ただし目下品切れ)、篠田英雄訳(岩波文庫版)がある。
書店データベースの書誌では見えない本邦訳書の成立事情について簡単に述べておこう。
この邦訳書は、原佑(はら・たすく, 1916-1976)が訳者にクレジットされていることから推察されるように、理想社版の『カント全集』(第4、5、6巻)に収録されていた訳書を底本としている。ただし、同全集版そのままの文庫化ではない。
今回の文庫化にあたって、渡邊二郎氏が量義治氏、高山守氏、木阪貴行氏、菊地恵善氏、円谷裕二氏、古川英明氏、湯浅正彦氏らの協力のもとに旧訳全体を補訂、渡邊氏が全体をさらに点検をかける、という工程を経て改訂されている。旧訳とつぶさに比較検討したわけではないけれど、見たところ訳文は全面的に刷新されており可読性も向上している。また、下巻には古川氏によって作成された70ページにわたる詳細な索引も完備されており取り回しも非常に便利になっている。
もちろん原文にあたって読むにしくはないけれど、その大きな助けともなる翻訳書の信頼性が高まりかつリーズナブルな形で刊行されたことを大いに歓迎したい。
なお、『純粋理性批判』の新訳としては、目下岩波書店から刊行中の『カント全集』にも三分冊で収録されている(ただし下巻は未刊)。右は同全集の最新刊である『カント全集 第22巻 書簡II』(木阪貴行+山本精一訳、岩波書店、2005/07、amazon.co.jp)。
また、これは不覚にも知らなかったのだけれど、『世界の名著』(中央公論社)と『日本の名著』を新書化した中公クラシックス版も、巻によっては訳文を改めているようだ。やはりかつて渡邊氏が原佑と共訳したハイデガーの『存在と時間』(『世界の名著』、中央公論社、1971)も、中公クラシックス版(全3分冊、中央公論新社、2003)では渡邊氏による改訂・増補が施されているとの由。