『コンピュータのひみつ』のひみつ その3


「コンピュータってなんですか?」という問いに対して、あなたならなんと答えるでしょうか、と前回問いかけました。



この「Xとはなんですか?」というのは、なかなか厄介な問いかけです。見かけはシンプルですが、しばしば子どもが「イヌってなあに?」「会社ってなあに?」「政治ってなあに?」だなんて問うて、親御さんを困らせていますね。


もちろん、辞書的・事典的に、「それはね〜なのよ」と答えて済ませることもできます(でもきっと、その説明に含まれている別の語について「Xってなあに?」と訊かれるのがオチですが)。


この問いを、もう少し別の角度から眺め直してみると、これは、何かが分かるとはどういうことか、というさらに面倒な問題を含んでいることが分かります。つまり、「Xとか何かということが分かるとは、一体全体どういうことか」というわけです。


ちょっとややこしいので、具体的に言い直してみましょう。「コンピュータってなんですか?」という問いを、いましがた見たように眺め直すとこう言い換えられます。

「コンピュータとはなにか、ということが分かるというのは、一体全体どういうことか」



ただ、この文章では、主語が明示されていないので、一般的な話、他人事のような気分があります。そこで、主語を「私」あるいは「自分」ということにして、もう少し言い換えてみると、こう言えるでしょうか。

「私が、コンピュータが分かるというのは、一体全体どういうことか」


こう書き直してみると、ぐっと他人事感が減って、自分の立場を重ねて考えやすくなりますね。でも、まだ、文章の後半が、曖昧です。こう言い直してみてはどうでしょうか。

「私が、コンピュータが分かるというのは、どういう状態になることか」


なんだか、外国語を直訳したような文章になりましたが、言いたいことは、はっきりしてきたような気がします。これを、もそっと素直に読める日本語にするなら、こうなろうかと思います。

「私は、どういう状態になったとき、コンピュータが分かったと言えるのか」


これでもまだ、かなり横のものを縦に直した式の翻訳文臭がしますね。

「どうなれば、自分はコンピュータが分かったと言えるのか」


だいぶ日本語風になってきましたが、気のせいか、「どうなれば」といった辺りに、曖昧模糊とした雰囲気が漂っているような気がします。それはさておき。


いえ、最初からそう訊けばいいじゃないかってなものですが、最初に掲げた「コンピュータとは何か」という、あたかも一般的な、人ごとであるかのような問いを、自分の問いとして実感してみるためにも、ちょっとしつこく書き直してみたのです。


「コンピュータとは何か?」という気軽な(しかしたいへん面倒な)問いを、自分に引き寄せてみると、こんなふうに、コンピュータを理解しようとする人の「状態」が視野に入ってきます。これは結構大事なポイントなのです。



煎じ詰めると、「分かる」って、どういう状態のこと? というのが、この問いの眼目です。


(つづく)


朝日出版社 > 『コンピュータのひみつ』
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