ビオリカ・マリアン『言語の力』書評

「日本経済新聞」2024年3月16日号の書評欄に、ビオリカ・マリアン『言語の力』(桜田直美訳、今井むつみ監訳・解説、KADOKAWA、2023/12)の書評を書きました。

同書は日常的に複数の言語を使っているマルチリンガルの人について、いまなにが分かってきているのかを言語学や神経科学の観点から案内する本です。

母語以外の異言語を学ぶことが人にどんな変化をもたらしうるかという点でも興味を持って読めると思います。

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2024年3月の平凡社ライブラリー

2024年3月の平凡社ライブラリーは次の2点です。

★962:クラウス・リーゼンフーバー『中世哲学の射程 ラテン教父からフィチーノまで』(村井則夫編訳、平凡社、2024/03/05)

『中世哲学の源流』(創文社、1995)、『中世における理性と霊性』(知泉書館、2008)に収録された論考を中心として、単行本未収録の論考1篇を加えた本。

序にかえて

第1部 中世思想の構造
 第1章 ラテン教父の思考様式と系譜
 第2章 ラテン中世における教父神学の遺産
 第3章 被造物としての自然ーー教父時代および中世における創造論
 第4章 中世における自己認識の展開ーー近代思想いそうの歴史的源泉をめぐって

第2部 中世の思想家たち
 第5章 ボエティウスの伝統ーープラトン主義とアリストテレス論理学の中世への継承
 第6章 信仰と理性ーーカンタベリーのアンセルムスにおける神認識の構造
 第7章 サン=ヴィクトルのフーゴーにおける学問体系
 第8章 人格の理性的自己形成ーートマス・アクィナスの倫理学の存在論的・人間論的構造
 第9章 知性論と神秘思想ーー十三・十四世紀スコラ学の問題設定
 第10章 神認識における否定と直視ーークザーヌスにおける神の探求をめぐって
 第11章 否定神学・類比・弁証法ーーディオニュシオス、トマス、クザーヌスにおける言語の限界と超越の言表可能性
 第12章 マルシリオ・フィチーノのプラトン主義と教父思想ーーキリスト教哲学の一展望

村井則夫「解題 理性の歴史ーー超越論哲学と否定神学」
編訳者あとがき
索引

今月、講談社学術文庫から刊行された、クラウス・リーゼンフーバー『存在と思惟 中世哲学論集』(山本芳久編)も『中世哲学の源流』から論考を選んで編んだ本でした。見たところ、本書と重なりはないようです。

また、平凡社ライブラリーに収録されたリーゼンフーバーの著作と関連書には、次のようなものがあります。

り2-1:『西洋古代・中世哲学史』(平凡社ライブラリー357、2008)
り2-2:『中世思想史』(村井則夫訳、平凡社ライブラリー485、2003)
り2-3:『中世哲学の射程 ラテン教父からフィチーノまで』(村井則夫編訳、平凡社ライブラリー962、2024)

『中世思想原典集成 精選』(全7巻)は、『中世思想原典集成』(全20巻+別巻、1992-2002)を元に、その一部を選んで再編集したもの。上記『中世思想史』は、その別巻に収められたものを改訂した本でした。

 

★963:越智敏之『[増補] 魚で始まる世界史 ニシンとタラとヨーロッパ』(平凡社、2024/03/05)

『魚で始まる世界史ーーニシンとタラとヨーロッパ』(平凡社新書、2014)を改訂増補した本。

偶然ではありますが、この本の冒頭は、上記した『中世思想原典集成』からの引用で始まっています。

 

「アーカイヴとウェブ上の記憶をめぐる作業日誌」(DISTANCE.media)

ドミニク・チェンさんとともに編集委員を務めているウェブメディア「DISTANCE.media」で連載を始めます。

「作業日誌」という形式で、同サイトで進んでいるアーカイヴやサイトについて、使い勝手や設計の観点から、あれこれ考えてみようというものです。

下のスクリーンショットのように、短い断章のように綴って参ります。

日付に続いてタイトルのように記してあるのは、日誌の1行目です。

distance.media

2024年3月の講談社学術文庫

2024年3月の講談社学術文庫は、以下の5冊です。

それぞれの本の冒頭にある4桁の数字は、講談社学術文庫の通し番号です。

 

★2808:クラウス・リーゼンフーバー『存在と思惟 中世哲学論集』(山本芳久編・解説、講談社、2024/03/12)

『中世哲学の源流』(上智大学中世思想研究所中世研究叢書、創文社、1995)を元に編者の山本芳久さんが論文を選んで編み直した文庫版。収録されている論文は以下の6本。

・「中世思想における至福の概念」
・「トマス・アクィナスにおける言葉」
・「トマス・アクィナスにおける存在理解の展開」
・「存在と思惟 存在理解の展開の可能性を探って」
・「トマス・アクィナスにおける神認識の構造」
・「神の全能と人間の自由 オッカム理解の試み」

 

★2809:渋沢栄一・杉浦譲『航西日記 パリ万国博見聞録 現代語訳』(大江志乃夫訳、講談社、2024/03/12)

渋沢栄一・杉浦譲『航西日記』(耐寒同社、1871)の現代語訳。

大江志乃夫訳「航西日記」(『世界ノンフィクション全集14』筑摩書房、1961、所収)を元にした文庫版。

「付録」として『渋沢栄一自叙伝』の抜粋「王政復古と帰朝」

木村昌人「解説 近代日本への貴重な原体験」

 

★2810:小島毅『近代日本の陽明学』(講談社、2024/03/12)

『近代日本の陽明学』(講談社選書メチエ、2006)を増補した文庫版。

 

★2811:中山茂『帝国大学の誕生』(講談社、2024/03/12)

『帝国大学の誕生ーー国際比較の中での東大』(中公新書、1978)第3版(1981)を底本とした文庫版。

石井洋二郎「解説 科学史/大学史を超えた「学問の歴史」」

 

★2812:上村悦子『新版 蜻蛉日記 全訳注』(講談社、2024/03/12)

『蜻蛉日記』(上中下巻、講談社学術文庫、1978)を1冊にまとめた新版。

 

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「アジア文芸ライブラリー」(春秋社)

春秋社編集部のツイートによると、2024年4月から「アジア文芸ライブラリー」という新シリーズが刊行されるようです。

パンフレットに掲載されている刊行予定には、チベット、台湾、マレーシア、インドなど、多様な地域の作品が並んでいます。

普段なかなか自分では遭遇できない作家たちと出会えるうれしい機会を楽しみにしています。全巻購読する所存。

 

www.shunjusha.co.jp

伊藤亜紗+アダム・タカハシ+山本貴光「新しい文理のデザイン」(DISTANCE.media)

伊藤亜紗さん、アダム・タカハシさんと「新しい文理のデザイン」というテーマでお話ししました。

掲載はDISTANCE.mediaで、編集部による記事へのリード文はこんなふう。

グローバリゼーション、デジタル化、環境問題、紛争、分断などが、私たちの前に複雑な課題を突きつけている。これらの問題の多くは、伝統的な学問分野の既存の枠組みでは適切に対処できない。異なる学問分野の統合や再編成を通じて、「文系/理系」という二項対立に象徴される従来の知のパラダイムを変革することが不可欠である。そこで、特集「文理のエコロジー」では、アカデミアの役割を問い直し、新たな知のデザインを探る。


この鼎談では、「他者の言葉を自分の言葉として翻訳して理解する」という営みを起点に、美学者の伊藤亜紗さん、哲学史家のアダム・タカハシさん、DISTANCE.media 編集委員の山本貴光さんに、文系と理系、中世自然哲学、近代科学、サイエンス&アートといった多岐にわたるトピックについて語り合っていただいた。

伊藤さん、タカハシさんとは話してみたいことがたくさんあって、つい3、4時間くらい話すような大風呂敷を広げてしまいました。お互いのカードを場に出したところで時間切れという感じもなくはありませんけれど、まずは文理や複数分野にまたがって動いたり考えたり書いたりしてきた三人それぞれの来歴や目下考えていることを論じてみたのでした。お楽しみいただけましたら幸いです。

 

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DISTANCE.mediaでの関連記事としては、斎藤哲也さんによる新連載「「博論本」を聴く」の第1回に、アダム・タカハシさんが登場して『哲学者たちの天球』(名古屋大学出版会)についてお話ししています。ぜひ併せてご覧くださいませ。

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また、DISTANCE.mediaでは、NTT出版がかつて発行していた雑誌『InterCommunication』のデジタル・アーカイヴも構築中です。同誌に掲載された記事を、準備が整ったものから順次公開しています。

上記の鼎談や記事に関連するものとしては、村上陽一郎さんと黒崎政男さんの対談「制度としての科学と哲学 対話から統合へ」(1996年10月1日)があります。

といったことも、折々にご紹介したいと念じているのでした。

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