何度でもカラマーゾフ

日経ビジネスオンラインの「毎日一冊! 日刊新書レビュー」のコーナーに書評を書いています。


小さな新書も、それぞれがその先にある大きな問題やフィールドへのリンクみたいなもので、関連する書物や研究などに踏み込んでいくと(当然のことながら)それぞれのテーマに関する「書物の星座」というか、 web of books のようなものがあることが見えてきます(そういう意味では、一冊ごとに百科全書の一項目のような文庫クセジュが好みです)。


日経ビジネスオンラインの書評ではその辺の関連文献まで紹介している暇がないのですが、なんらかの形でそうしたことについても目に見えるようにしておきたいなと思ったりします。


次回掲載予定の拙書評では、



亀山郁夫『『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する』光文社新書319、光文社、2007/09、ISBN:4334034209


をとりあげてみました。


かつて、江川卓『謎とき『カラマーゾフ』の兄弟』(新潮選書、新潮社、1991/06、ISBN:4106004011)も相当カラマーゾフの兄弟を読む愉しみを広げてくれる本でしたが、亀山さんの新著もそれに劣らずスリリングです。


ドストエフスキーカラマーゾフの兄弟に続く予定だった続編(第二作)で、皇帝暗殺をテーマにするはずだったといいますが、作家自身、監視や検閲にさらされていた身でどうやってこのテーマに挑むのか。作中人物の誰が暗殺者となるのか。これが大きな謎です。果たして亀山さんはそこをどう空想されたのか。



皇帝アレクサンドル2世は、ドストエフスキーが没してすぐ、暗殺されてしまうわけですが、先ごろまさにこれをテーマにしたエドワード・ラジンスキーの『アレクサンドル2世暗殺』(上下、望月哲男+久野康彦訳、NHK出版、ISBN:414081232X)が翻訳されて、これも併せて読むと一層おもしろくなります。副題はそれぞれ、「ロシア・テロリズムの胎動」(上巻)、「ドストエフスキーの死」(下巻)です。


上記新書を読む前に亀山新訳を読んだばかりだというのに、『『カラマーゾフの兄弟』続編を空想する』を読了後、そんなふうに(も)読めるのか、とふたたび第一巻から読み直すはめに(笑)。


光文社古典新訳文庫も創刊から1年が経ち、ラインナップも40冊とか。私も全部読むつもりで毎月全書目を手にとっています。いま、毎月の新刊の知らせが楽しみな叢書の一つです。


⇒光文社古典新訳文庫
 http://www.kotensinyaku.jp/index.html


⇒作品メモランダム > 亀山郁夫『大審問官スターリン
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20060410/p1


⇒作品メモランダム > 新書の洪水、怒涛の書評
 http://d.hatena.ne.jp/yakumoizuru/20070705


以下は、ここ3カ月ほどのあいだに日経ビジネスオンラインに寄稿した書評です。


ノーム・チョムスキー『お節介なアメリカ』(ちくま新書676、筑摩書房、2007/09、ISBN:448006382X
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20070928/136306/


内田隆三『ベースボールの夢——アメリカ人は何をはじめたのか』岩波新書1089、岩波書店、2007/08、ISBN:400431089X
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20070912/134699/


佐々木毅『民主主義という不思議な仕組み』ちくまプリマー新書64、筑摩書房、2007/08、ISBN:4480687653
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20070830/133594/


富岡幸一郎『スピリチュアルの冒険』講談社現代新書講談社、2007/07、ISBN:4061498991
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20070822/132805/


佐藤卓己・孫安石編『東アジアの終戦記念日——敗北と勝利のあいだ』(ちくま新書669、筑摩書房、2007/07、ISBN:4480063730
 http://business.nikkeibp.co.jp/article/life/20070801/131459/