連載「「百学連環」を読む」第16回を寄稿しました。
ここのところ、三省堂ワードワイズ・ウェブで連載中の「「百学連環」を読む」のために、「エンチクロペディー(Enzyklopädie)」というドイツ語を追跡しています。
これを「百科全書」や「百科事典」と訳して済めば、話ははやかったのですが、大学における講義のタイトルだということなので、そうは問屋が卸さないのです。
そういえば、ヘーゲルにも「エンチクロペディー」という講義がありました。これを訳している皆さんは、この語をどう解したのかと思って、20世紀初め頃のものから最近のものまで、とにかく「エンチクロペディー」の訳書を集めて覗いてみています。
うまくいけば、訳注や解説で、当時のドイツにおけるエンチクロペディーとはなんなのかということを、どなたか解説してくれているだろうと思ったのでしたが、これは当てが外れました(まだ遭遇できていないだけだろうとも思います)。
多くの場合、どうも「エンチクロペディーといったらエンチクロペディーだろう」という調子で、片仮名に音写して済ませており、この語に躓いたり、立ち止まっている痕跡が見えません。最近のものでは、長谷川宏氏の訳書(作品社)で「集大成」と訳しているのが例外的でしょうか。ひょっとするとドイツ哲学やドイツ文学の研究者には当然のことすぎるために、わざわざ解説の必要を感じていないのかもしれません。
しかし、翻訳されずに音写して済まされる片仮名語には要注意。訳者が片仮名のままにしておくのは、もちろんなんらかの意向があってのことですが、読者としては、そのままでは意味不明の場合も少なくありません。やはり面倒でも、片仮名に写された語の原語が、当該言語のなかで割り当てられている意味を見ておかなければならないでしょう。
というわけで、手近なドイツ語辞典を何冊か調べてみましたが、大半は、例の「百科全書」や「百科事典」という意味しか載せておりませんでした。頼みの綱の「グリムのドイツ語辞典」にも当たってみたのですが、同書には項目自体が存在していません。
グリムたちの時代からすると、載録するには比較的新しい語だったのかどうか、事情は分かりませんが、この際だからとCD-ROM版を入手して全文検索をかけてみたところ、2件ヒットがありました。しかしこれは、他の語の説明中に現れるもの。
とはいえ、いまは大変ありがたいことに、Google booksをはじめとする、古い書物のディジタル・アーカイヴや、CiNiiのような論文データベースがあります。あとはそれを使う者が、どんな問いを念頭に置いて、どんな語彙で検索をかけるかだけが問題という次第。
連載第16回となる今回、その探索(マイニング)の一端をお目にかけています。
⇒三省堂ワードワイズ・ウェブ > 「「百学連環」を読む」 第9回
http://bit.ly/pdXbt1
⇒三省堂ワードワイズ・ウェブ > 「「百学連環」を読む」目次ページ
http://bit.ly/icTKRW
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